オプションディーラー(Option Dealer)とは?2つの意味と仕事内容・マーケットメイカーとの違い・日経225の制度を忖度なく解説

ICHIZEN Capitalのイチ押しポイント!
- オプションディーラーとは「オプション取引を専門に行う人(職種)」のこと
- 自分の相場観でポジションを作って収益を上げる仕事で、ハイリスク・ハイリターン(※1)
- 損失限度額・持ち高限度額などが内部規則で厳しく管理されている
- 要注意|相場の話に出てくる「ディーラー」はマーケットメイカーを指すことが多い
- GEX・ディーラーガンマの文脈での「ディーラー」は、気配を提示する業者側の意味
- 同じ言葉が別の対象を指すため、どちらの意味かは文脈で読み分ける必要がある
- 仕事の中身は「売り買い両方の気配提示」と「デルタヘッジ」
- 収益源は売値と買値の差。編集部のDeribit実測では残存43日のATMコールで約97ドル幅
- 方向リスクはデルタヘッジで打ち消し、ガンマ・ベガと在庫リスクを管理する
- 日本では大阪取引所がマーケットメイカー制度を設けている(日経225オプションも対象)
- オプションは全てPMM(継続的に売買の気配を出す役)のみが対象(※3)
- 条件を満たせなくても直接的なペナルティはなく、急変時に気配が薄くなることは制度上あり得る
木田 陽介「ディーラー」という言葉ほど、文脈で意味が変わる用語も珍しいです。職業として聞かれているのか、それともGEXの解説に出てくる「ディーラーの買い戻し」の話なのか。忖度なく言うと、ここを混ぜたまま読むと相場解説が一生腑に落ちません。2つの意味を分けたうえで、実際の気配の出方まで実測で見ていきます。


監修 木田 陽介
株式会社ICHIZEN HOLDINGS 代表取締役
2016年から仮想通貨トレードを開始。2017年に株式会社CoinOtakuを共同で創業。同年CoinOtakuの代表に就任。2020年に東証二部上場企業に6億円でM&A。bitgetの月間取引高で世界4位を獲得。2025年にCoinOtaku代表を退任し、同年5月に株式会社ICHIZEN HOLDINGSの代表取締役に就任。
オプションディーラー(Option Dealer)とは?基本情報
本記事は金融・デリバティブ市場の「オプションディーラー」を扱います。自動車購入時のメーカーオプション/ディーラーオプション(純正アクセサリーの後付け等)とは無関係の内容です。
オプションディーラーとは、デリバティブのオプション取引を専門に行う人(職種)のことです。金融の用語集では市場参加者の一種として分類され、英語ではOption Dealerと表記されます。証券会社などに所属し、会社の資金と勘定を使って自らの判断でオプションを売買する担当者を指すのが基本の意味です(※1)。
特徴は、顧客の注文を仲介するのではなく自己の計算で勝負する点にあります。自分の相場観をもとに多様なポジションを組んで収益を上げるのが仕事であり、その取引内容はハイリスク・ハイリターンです。そのため日々の取引では、損失限度額や持ち高限度額といった枠が内部規則によって厳しく管理されています(※1)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方・英語 | オプションディーラー/Option Dealer |
| 分類 | 市場参加者(職種) |
| 意味 | オプション取引を専門に行う人。自己の計算で売買する |
| 収益の源泉 | 自身の相場観に基づくポジション損益/気配提示のスプレッド |
| リスク特性 | ハイリスク・ハイリターン。損失限度額・持ち高限度額で管理 |
| 混同されやすい語 | マーケットメイカー(気配提示者)/ブローカー(仲介者) |
| 日本の法的枠組み | 自己売買は第一種金融商品取引業。内閣総理大臣の登録が必要(※2) |
ただし、この職種としての定義だけを覚えて相場解説を読むと、かえって混乱します。オプションの相場解説に出てくる「ディーラー」は、多くの場合マーケットメイカーという別の対象を指しているためです。次の章で、この2つを整理します。
「ディーラー」には2つの意味がある|職種と相場用語の使い分け
- ①職種としてのディーラー=自己の計算で売買するプロ
- ②相場用語としてのディーラー=気配を提示するマーケットメイカー
- ブローカーとの違いは「誰のお金で取引するか」
検索して出てくる情報が噛み合わないと感じる原因は、ほぼここにあります。「オプションディーラー」という言葉は、職業の話と相場の話で指す対象が変わるのです。どちらも間違いではないものの、混ぜて理解すると解説が読めなくなります。
①職種としてのオプションディーラー|自己の計算で売買するプロ
1つ目は、冒頭で触れた用語どおりの意味です。証券会社などの金融機関に所属し、会社の資金(自己勘定)でオプションを売買して利益を狙う担当者を指します。この自己勘定での売買はディーリング、あるいはプロップトレーディングとも呼ばれています。
日本の法律では、この業務がきちんと位置づけられています。有価証券の売買や市場デリバティブ取引を業として行うことは金融商品取引業にあたり(金商法第2条第8項第1号)、これは第一種金融商品取引業に区分されます(同法第28条第1項第1号)。そして金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行うことができません(同法第29条)(※2)。
②相場用語としてのディーラー|気配を提示するマーケットメイカー
2つ目が、オプション市場の解説で圧倒的によく使われる意味です。「ディーラーのガンマ」「ディーラーが買い戻しを迫られる」といった表現に出てくるディーラーは、職業としての個人ではなく市場に売りと買いの気配を出し続けている業者(マーケットメイカー)の総体を指しています。
なぜこの意味で使われるのでしょうか。投資家がオプションを買うとき、その反対側で売っているのは多くの場合マーケットメイカーです。市場全体の建玉の反対側を引き受ける立場にあるため、その持ち高がまとまった影響力を持つと考えられており、相場分析の対象になっています。
なお、ディーリングとマーケットメイクは対立するものではありません。マーケットメイクも自己の計算で行う売買であり、広い意味ではディーラー業務の一部です。違いは目的にあり、相場観で勝負するのがプロップトレーディング、気配提示で流動性を供給するのがマーケットメイクという整理になります。
ブローカーとの違い|「誰のお金で取引するか」
ディーラーと最もよく対比されるのがブローカーです。両者の決定的な違いは「誰のお金で取引するか」という一点に集約されます。ディーラーは自社の資金で売買して値動きから利益を狙い、ブローカーは顧客の注文を仲介して手数料を受け取ります。
この区別も法律の条文に現れています。自己の売買が第2条第8項第1号であるのに対し、売買の媒介・取次ぎ・代理というブローカー業務は同項第2号として別に定められているのです(※2)。同じ証券会社が両方の業務を持つことも珍しくありません。
| 比較項目 | ディーラー(自己売買) | ブローカー(仲介) |
|---|---|---|
| 誰の資金で取引するか | 自社の資金・自己勘定 | 顧客の資金 |
| 収益源 | 売買の値差・気配提示のスプレッド | 売買委託手数料(コミッション) |
| 相場変動リスク | 自社が負う | 原則として負わない |
| 金商法上の行為 | 第2条第8項第1号 | 第2条第8項第2号 |
※金商法上の条番号は金融商品取引法(昭和23年法律第25号)の条文に基づく整理です(※2)。実際の証券会社は複数の業務を併せて行う場合があります。
オプションディーラーの仕事|気配提示・デルタヘッジ・在庫リスク
- 売りと買いの気配を同時に出し、その差(スプレッド)を積み上げる
- 方向リスクはデルタヘッジで打ち消す
- ヘッジしても消えないガンマ・ベガ・在庫リスクが本当の勝負どころ
売りと買いの気配を同時に出す|スプレッドが収益源
マーケットメイカーとして動くディーラーの収益構造は、相場を当てることではありません。「この値段なら買います(ビッド)」「この値段なら売ります(アスク)」の両方を出し続け、その差額を細かく積み上げるという反復のビジネスです。1回あたりの利益は小さく、回数で成立します。
実際にどれくらいの幅で気配が出ているのでしょうか。ICHIZEN Capitalが暗号資産オプション最大手Deribitの公開APIを実際に照会し、BTCオプションの気配を実測しました。残存43日のATM(原資産に最も近い行使価格)のコールでは、売値と買値の差は約97ドルにとどまっています。
2026年7月、編集部がDeribitの公開API(public/ticker・public/get_instruments・public/get_index_price)へ直接照会し、BTCオプションの最良買気配・最良売気配・bid_iv・ask_ivを実測。ドル換算とスプレッド率は実測値をもとに編集部が算出したものです。BTC指数価格は約64,964ドル。
| 銘柄(BTCコール・ATM) | 買気配/売気配 | スプレッド | IVの提示幅 | 測定時点 |
|---|---|---|---|---|
| 残存43日(8月28日満期) | 約3,118ドル/約3,216ドル | 約97ドル(仲値比 約3.1%) | 約33.6%〜約34.7%(約1.1ポイント) | 2026年7月 |
| 残存1日(7月17日満期) | 約455ドル/約520ドル | 約65ドル(仲値比 約13.3%) | 約28.3%〜約32.2%(約3.9ポイント) | 2026年7月 |
※Deribit公開APIの実測値(2026年7月時点)。行使価格65,000ドルのコールオプションで測定。数値は市況により常に変動します。
この2行が示すのは、ディーラーは「同じ幅」で気配を出しているわけではないという事実です。主力である残存43日のATMではIVの提示幅が約1.1ポイントと狭い一方、満期当日に近い残存1日では約3.9ポイントまで広がっていました。不確実性が高い場面ほど、ディーラーは自分を守るために気配を広げると読み取れるでしょう。
デルタヘッジ|方向のリスクを打ち消す
気配を出す以上、ディーラーは相手が買いたいときに売り、売りたいときに買う立場になります。その結果、自分では望んでいない方向リスクを抱え込むことになるのです。ここで使われるのがデルタヘッジという手法になります。
デルタとは、原資産の価格変化に対するオプション価格の変化額を表す指標です。日本取引所グループは「デルタ(⊿)=オプション価格の変化額÷原資産価格の変化額」と定義しており、値は0から絶対値1の間に収まります(※6)。デルタの分だけ原資産(先物など)を反対売買すれば、方向リスクは打ち消せるという理屈です。
たとえばデルタ0.5のコールを1枚売った場合、原資産を0.5単位買っておけば、価格が動いても損益はおおむね相殺されます。この状態はデルタニュートラルと呼ばれています。方向を捨てることで、ディーラーはスプレッドという「手数料」の回収に専念できるわけです。デルタそのものはオプションのプレミアムの記事でも触れています。
ヘッジしても消えないもの|ガンマ・ベガ・在庫リスク
ここがオプションディーラーの難しさの本体です。デルタヘッジは一度やれば終わりではありません。原資産が動けばデルタ自体が変化してしまうため、ヘッジは繰り返し組み直す必要があります。このデルタの変化しやすさを表すのがガンマです。
さらに、IV(インプライド・ボラティリティ)が動けばオプション価格は変わります。この感応度がベガであり、デルタをいくら消してもガンマ・ベガ・時間価値の減少(セータ)は在庫として残り続けるのです。IVの基礎はIV(インプライド・ボラティリティ)の記事で詳しく解説しています。
冒頭で触れた「損失限度額・持ち高限度額が内部規則で厳しく管理されている」(※1)という点は、まさにこの在庫リスクへの備えです。気配を出し続ける以上、望まないポジションは必ず溜まるため、枠を決めて管理する必要があると言えるでしょう。
なぜ「ディーラーのヘッジ」が相場を動かすと言われるのか
ここまでを踏まえると、相場解説で「ディーラー」が主語になる理由が見えてきます。ディーラーのヘッジ売買は、相場観に基づく裁量ではなく、ルールに沿った機械的な反復だからです。読み手にとって予測しやすい性質を持つ、数少ないフローだと言えます。
因果はこう整理できます。ディーラーは顧客の注文を受けた瞬間に望まないデルタを抱え、それを消すために原資産を売買します。ガンマがあるためデルタは相場変動で勝手に変わり、ヘッジは1回で終わらず継続的に発生するのです。その反復売買が積み上がると、原資産の需給そのものになります。
方向は、ディーラーがガンマをどちら向きに抱えているかで変わると考えられています。ガンマがプラス側なら上昇で売り・下落で買いという逆張りのヘッジになり、値動きを抑える方向に働きます。逆にマイナス側なら上昇で買い・下落で売る順張りとなり、値動きを増幅させる方向に働くという整理です。
| ディーラーのガンマ | 原資産が上昇したとき | 原資産が下落したとき | 相場への働き |
|---|---|---|---|
| プラス側(ロングガンマ) | 原資産を売る | 原資産を買う | 逆張り=値動きを抑える方向 |
| マイナス側(ショートガンマ) | 原資産を買う | 原資産を売る | 順張り=値動きを増幅する方向 |
市場全体のディーラーが抱えるガンマの総量を推計した指標が、GEX(ガンマエクスポージャー)です。仕組みの詳細はガンマエクスポージャー(GEX)の記事、その符号が反転する境目についてはガンマフリップの記事で解説しています。
ただし、ここは慎重に扱うべき領域です。「ディーラーが価格をコントロールしている」という表現は正確ではありません。言えるのは、ヘッジフローが値動きを増幅または抑制し得るという傾向までです。また、集計サイトが表示するGEXの符号は推計であり、ディーラーの実際の保有を確定できるものではありません。建玉(OI)の数字だけから、誰が買い手で誰が売り手かを断定することもできないのです。
日本の制度|大阪取引所のマーケットメイカー制度を読み解く
「ディーラーは板を出す義務があるのか」という疑問には、日本の場合はっきりした答えがあります。大阪取引所(OSE)は、投資家の円滑な取引機会の確保を図る観点から、一部の商品を対象にマーケットメイカー制度を導入しています(※3)。日経225オプション取引も、その対象です。
制度の目的は規則に明記されています。「継続的な売呼値及び買呼値の提示等により投資者の取引機会を確保し、取引の円滑な成立及び流動性の向上を図るため」とされ、業務規程施行規則第18条を根拠としています(※4)。マーケットメイカーとは、取引所の指定を受けてマーケットメイク等を行う取引参加者を指すという定義です。
PMMとLPの違い|オプションは全てPMMのみが対象
制度上、役割は2種類に分かれています。PMM(プライマリマーケットメイカー)は継続的に売呼値と買呼値を提示する役で、LP(流動性供給参加者)は自分が適当と判断する範囲内で対当する呼値を行う役です(※4)。義務の重さがまったく違います。
ここに、あまり知られていない事実があります。規則の対象取引一覧を確認すると、日経225オプション取引をはじめオプション7種類は全てPMMのみが対象で、LPは「対象外」と定められています(※4)。日経225先物やTOPIX先物にはLPが設定されているのとは対照的です。オプションについては、取引所が緩い関与ではなく継続的な両建て提示を求めていると読み取れるでしょう。
日中は19本・夜間は5本|「夜間の板が薄い」の制度的な答え
PMMが守るべき条件として、取引所は「呼値提示対象時間」「対象銘柄の範囲及び数」「売呼値と買呼値の最大スプレッド幅」「呼値の最低数量」などを定めています(※4)。日経225オプションの具体的な中身は、日中と夜間で大きく異なります。
| 項目 | 日中立会 | 夜間立会 |
|---|---|---|
| 対象銘柄 | 第2〜第6限月のATM近辺19本(ITM2本+ATM+OTM16本) | 直近2限月のATM近辺5本(ITM1本+ATM+OTM3本) |
| 呼値の最低数量 | 20単位 | 20単位 |
| インセンティブ受領基準 | 条件充足率が20%以上 | 条件充足率が30%以上 |
| 取引手数料割引の上限 | 1単位あたり350円 | 1単位あたり350円 |
※大阪取引所「先物・オプション取引に係るマーケットメイカー制度の取扱い」(2026年6月1日改正・2026年7月1日適用)タイプ1の条件より編集部が作成(※4)。制度は改正される場合があります。
この差は、個人投資家が体感している現象の答えになります。夜間にPMMが気配を出すべき銘柄は、制度上わずか5本にすぎません。日中の19本と比べれば4分の1程度です。夜間に少し離れた行使価格の板がスカスカに見えるのは、多くの場合そもそも制度上の義務の外にあるためだと説明できます。
なお、ATMの判定は日経225オプションの場合、日経225先物(直近限月)の直近約定値段に基づいて決定されると定められています(※4)。現物の日経平均株価ではない点は、細かいながら実務では効いてくる部分です。
★条件を満たせなくても直接的なペナルティはない
個人投資家にとって最も実用的な事実が、ここにあります。規則には次のように明記されています。「PMMは、相場環境、取引状況又はシステム等の都合により、一時的にマーケットメイクを停止することができる」「マーケットメイクの条件を満たせなかった場合でも、直接的なペナルティは設けない」(※4)。
まったくの野放しというわけでもありません。条件を満たせなければインセンティブが低減する可能性があり、呼値提示の条件充足率が著しく低く改善の見込みがないと取引所が判断した場合は、PMMの指定を取り消すことがあるとされています(※4)。あくまで「直接的な罰則はない」という設計です。
忖度なく言えば、この一文の意味は重いと考えています。相場が急変した場面でマーケットメイカーの気配が薄くなるのは、ルール違反ではなく制度上想定された動作だということです。取引所自身も「相場状況等によっては、当該基準に従った気配提示が行われないこともありますので、ご注意ください」と案内しています(※3)。「誰かが必ず板を出してくれる」という前提で成行注文を置くのは危険だと言えるでしょう。
誰が指定されているのか|国内外の証券会社が並ぶ
指定マーケットメイカーの一覧は、取引所が公表しています。2026年7月1日時点の一覧には、ABN・アムロ・クリアリング証券、バークレイズ証券、BNPパリバ証券、JPモルガン証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、モルガン・スタンレーMUFG証券、日産証券、野村證券、フィリップ証券、三晃証券、ソシエテ・ジェネラル証券、豊証券、およびその他が掲載されています(※5)。
顔ぶれとして興味深いのは、外資系の大手だけでなく日産証券・三晃証券・豊証券といった国内の中堅証券も名を連ねている点です。高頻度取引の専門業者だけが担っているわけではないと分かります。なお同一覧は商品ごとに指定の有無が分かれるため、個別の会社がどの商品のマーケットメイカーかは、一覧の原本で確認する必要があります。
制度の作りとして、もう1点補足します。マーケットメイクは取引参加者の自己売買部門が行う場合のほか、最終顧客の計算で行われる場合もあると規則に定められています(※4)。一覧に「その他」という区分があるのは、この仕組みが背景にあると考えられます。
オプションディーラーを理解するときの注意点(忖度なし)
- 相場解説の「ディーラー」が誰を指しているのか迷わなくなる
- 板が厚い・薄い場面の理由を、制度と在庫リスクの両面から説明できる
- 夜間や急変時に約定が滑りやすい理由に、事前に備えられる
- GEXやガンマフリップの解説が、因果として読めるようになる
- 「ディーラーが価格をコントロールしている」は言い過ぎ。増幅・抑制し得るまで
- 集計サイトのGEXの符号は推計であり、ディーラーの実保有を確定できない
- 建玉(OI)の数字だけでは、買い手・売り手のどちらがディーラーかを断定できない
- 職種としてのディーラーと、相場用語のディーラー(=マーケットメイカー)は別物
- マーケットメイカーがいても、常時フルに板が出ている保証はない
ICHIZEN Capitalの視点|ディーラーは「読む対象」であって「敵」ではない
ICHIZEN Capitalは自社のオプション分析noteで、BTCオプションのディーラー動向を継続的に追ってきました。その経験から言えるのは、ディーラーを「相場を操る敵」として見ると、かえって読み違えるということです。実際に効くのは、もっと地味な観察の積み重ねになります。
たとえば2026年2月、BTCが62,000ドル台まで下落した局面の分析では、価格の下落そのものではなく「その裏側で大口投資家やマーケットメイカーがどうポジションを組み替えているか」に注目するという視点を採りました。このとき着目したのが、IBITの特定の行使価格帯でディーラー側のネガティブ・ガンマが前週比で明確に減少していたという事実です。
読み筋はこうです。ネガティブ・ガンマが支配的な環境では、価格が上昇に転じた際にディーラーはデルタ中立を保つために先物の買い戻しを迫られます。その圧力が弱まっていることは、相場の性格が変わりつつあるサインと捉えられるためです。数値そのものより、前週比でどちらに動いたかを見る作業だと言えるでしょう。
また2025年11月の分析では、85,000ドルのプットで建玉(OI)の増加はわずかなのに出来高だけが3,000規模まで膨らむという異常値を取り上げました。OIが増えずに出来高だけが急増する場合、新規の建玉というより既存ポジションの調整である可能性が高いと考えられます。OIと出来高を突き合わせて初めて見えるものがあるという一例です。
そのうえで、あえて釘を刺しておきます。こうした読み筋はあくまで推測であり、ディーラーの実際の保有を確定させたものではありません。集計値の符号から保有を断定したり、約定の方向だけで最終的な保有者を決めつけたりすると、分析ではなく物語になってしまいます。ICHIZEN Capitalが分析で外した場面もあり、そこを隠さず書くほうが結局は役に立つと考えています。
今回のDeribit実測も、同じ姿勢の延長にあります。主力限月のATMでIVの提示幅が約1.1ポイントに収まっていたという事実は、ディーラーがその近辺では自信を持って両建てを出していることを示します。一方で残存1日では約3.9ポイントまで広がっていました。ディーラーが広げているところは、ディーラー自身が測りかねている場所だと読むこともできるでしょう。板の幅は、彼らの自信の度合いがそのまま出る指標です。



個人の方からよく「ディーラーの裏をかきたい」と相談されますが、忖度なく言うとその発想はおすすめしません。相手は在庫を捌くために機械的に動いているだけで、こちらを狙い撃ちにはしていないからです。実務で効くのは、板が広い時間帯に成行を出さない、夜間は義務対象が5本しかないと知っておく、といった地味な話。制度を知ることは、そのまま自分の約定コストを守ることに繋がります。
個人投資家はオプションディーラーになれるのか|制度と税金
結論から言えば、個人が取引所の指定マーケットメイカーになることは現実的ではありません。制度上のマーケットメイカーは「取引所の指定を受けた取引参加者」であり、指定申請は取引参加者を通じて行う建て付けになっているためです(※4)。自己売買を業として行うこと自体も、第一種金融商品取引業として登録が必要になります(※2)。
一方で、ディーラー的な考え方を自分の取引に取り入れることは誰にでもできます。方向を当てにいくのではなく、IVの水準を見て割高・割安を判断する、在庫(ポジション)の偏りを管理する、といった発想です。オプションの値段がどう決まるかはオプションのプレミアムの記事で整理しています。
そのうえで見落とせないのが税金です。同じオプション取引でも、国内の上場オプションと暗号資産オプションでは扱いがまったく違います。日経225オプションなど国内の市場デリバティブ取引は「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税の対象となり、税率は20.315%です(※7)。
これに対し、暗号資産の証拠金取引による所得については、申告分離課税の適用がなく総合課税で申告すると国税庁が明示しています(※8)。他の所得と合算され、住民税を含めると最大約55%の税率になり得ます。「デリバティブだから一律20%」という理解は誤りだと言えるでしょう。
| 項目 | 日経225オプション等(国内上場) | 暗号資産オプション |
|---|---|---|
| 課税方式 | 申告分離課税 | 総合課税(雑所得) |
| 税率の目安 | 20.315% | 最大約55%(住民税含む) |
| 根拠 | 先物取引に係る雑所得等の課税の特例(※7) | 申告分離課税の適用なし(※8) |
暗号資産を申告分離課税の対象とする制度改正は進んでいるものの、対象範囲や適用時期には要確認の部分が残ります。「暗号資産も20%になった」と早合点しないことが大切です。暗号資産の税務全般は仮想通貨の税金の記事で整理しています。
\デリバティブを実際に取引できる総合型の大手/
よくある質問
- オプションディーラーとは何ですか?
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デリバティブのオプション取引を専門に行う人(職種)のことです。自分の相場観で多様なポジションを作って収益を上げるのが仕事であり、その取引内容はハイリスク・ハイリターンとされています(※1)。なお自動車購入時の「ディーラーオプション」とはまったくの別物です。
- オプションディーラーとマーケットメイカーは同じですか?
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重なる部分は大きいものの、厳密には同じではありません。マーケットメイカーは「自己の計算で売買する者のうち、取引所の指定を受けて継続的に気配を提示する者」を指します(※4)。日本の日経225オプションではPMM(プライマリマーケットメイカー)がこれにあたります。相場解説に出てくる「ディーラー」は、ほぼこの意味で使われています。
- ディーラーとブローカーの違いは何ですか?
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「誰のお金で取引するか」が違います。ディーラーは自社の資金(自己勘定)で売買して値差で稼ぎ、ブローカーは顧客の注文を仲介して手数料を得ます。金商法でも、自己の売買は第2条第8項第1号、媒介・取次ぎ・代理は同項第2号として別に定められています(※2)。
- ディーラーガンマとは何ですか?
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マーケットメイカー(ディーラー)が全体として抱えているとみられるガンマの量を指す言い方です。プラス側なら上昇で売り・下落で買う逆張りのヘッジとなり値動きを抑える方向に、マイナス側なら順張りとなり値動きを増幅する方向に働くと整理されます。ただし集計値の符号は推計であり、実際の保有を確定できるものではありません。
- なぜディーラーのヘッジで相場が動くのですか?
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ヘッジが機械的に反復されるためです。ディーラーは気配を出す立場上、望まない方向リスクを抱えます。それを消すために原資産を売買しますが、ガンマがあるためデルタは相場変動で変わり続け、ヘッジは1回で終わりません。その反復売買が積み上がると原資産の需給そのものになります。なお、これは価格を支配するという意味ではなく、値動きを増幅・抑制し得るという傾向です。
- 日経225オプションにマーケットメイカーはいますか?
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います。大阪取引所がマーケットメイカー制度を設けており、日経225オプション取引も対象です(※3)。2026年7月1日時点の指定マーケットメイカー一覧には、野村證券やJPモルガン証券などの国内外の証券会社に加え、日産証券・三晃証券・豊証券といった中堅証券も掲載されています(※5)。
- マーケットメイカーは常に板を出す義務がありますか?
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条件は定められていますが、絶対的な義務ではありません。規則上、PMMは相場環境やシステム等の都合により一時的にマーケットメイクを停止でき、条件を満たせなかった場合でも直接的なペナルティは設けられていません(※4)。ただしインセンティブが減る可能性があり、充足率が著しく低く改善の見込みがないと判断されれば指定を取り消されることがあります。
- 暴落時にオプションの板が薄くなるのはなぜですか?
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制度上想定された動作だからです。PMMは相場環境等により気配提示を一時停止でき、罰則もありません(※4)。取引所自身も「相場状況等によっては、当該基準に従った気配提示が行われないこともあります」と注意喚起しています(※3)。加えて、変動が大きい局面ではディーラー側の在庫リスクも高まるため、気配は広がりやすくなります。
- 夜間はオプションの板が薄いように感じますが気のせいですか?
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気のせいではありません。日経225オプションでPMMが気配を出すべき対象銘柄は、日中立会が第2〜第6限月のATM近辺19本であるのに対し、夜間立会は直近2限月のATM近辺5本と定められています(※4)。夜間に離れた行使価格の板が薄いのは、多くの場合そもそも制度上の義務の対象外だからです。
- オプションディーラーの利益はどこから出るのですか?
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マーケットメイクとして動く場合、主な収益源は買値と売値の差(スプレッド)の反復回収です。編集部がDeribitで実測したところ、残存43日のATMコールで約97ドルの幅がありました(2026年7月時点)。加えて日本の制度では、取引所から取引手数料の割引や固定額の支給といったインセンティブも提供されています(※4)。
- 個人投資家もオプションディーラーになれますか?
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取引所の指定マーケットメイカーになることは現実的ではありません。制度上のマーケットメイカーは取引所の指定を受けた取引参加者に限られ、申請も取引参加者を通じて行う建て付けだからです(※4)。自己売買を業として行うこと自体も第一種金融商品取引業として登録が必要です(※2)。一方で、方向を当てにいかずIV水準と在庫の偏りで考えるという発想は、個人でも取り入れられます。
- オプションディーラーの年収はいくらですか?
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オプションディーラーに特化した公的な年収統計は確認できませんでした。一般に金融機関のディーラー職は成果連動の比重が大きいとされますが、媒体によって提示額に幅があり、確かな一次情報として示せる数値はありません。確認できない以上、本記事では具体的な金額を断定しない方針です。
まとめ|「ディーラー」は2つの意味を分けて読む
オプションディーラーとは、本来の用語としてはオプション取引を専門に行う人(職種)を指します(※1)。一方で、相場解説に出てくる「ディーラー」の多くは市場に気配を出し続けているマーケットメイカーのことです。この2つを分けて読むだけで、GEXやガンマフリップの解説はぐっと通りやすくなるでしょう。
実務面で押さえるべきは、ディーラーが方向を当てにいっていないという点です。デルタヘッジで方向リスクを消し、スプレッドを反復回収するのが基本の形になります。ただしガンマ・ベガ・在庫リスクは残るため、不確実な場面ほど気配は広がるのです。編集部のDeribit実測でも、主力限月のATMではIVの提示幅が約1.1ポイントだったのに対し、残存1日では約3.9ポイントまで開いていました(2026年7月時点)。
そして日本の制度から読み取れる、最も実用的な事実がこれです。マーケットメイカーは条件を満たせなくても直接的なペナルティを負わず、相場環境次第で気配提示を一時停止できます(※4)。夜間の義務対象はわずか5本です。板は「あって当たり前」のものではないという前提に立ち、急変時や夜間の成行注文には慎重になることが大切だと言えるでしょう。
最後に整理します。職種としてのディーラーは自己の計算で売買するプロ、相場用語のディーラーは気配を出すマーケットメイカー。後者は方向を捨ててスプレッドを取りにいく存在で、そのヘッジが値動きを増幅・抑制し得ます。ただし価格を支配しているわけではありません。敵視するより、板の幅を「彼らの自信の度合い」として読むほうが、はるかに実戦的ではないでしょうか。
参考文献
1. iFinance「オプションディーラーとは」https://www.ifinance.ne.jp/glossary/market/mar242.html
2. e-Gov法令検索「金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)」第2条第8項・第28条・第29条https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000025
3. 日本取引所グループ(大阪取引所)「マーケットメイカー制度」https://www.jpx.co.jp/derivatives/rules/market-maker/index.html
4. 大阪取引所「先物・オプション取引に係るマーケットメイカー制度の取扱い」(2026年6月1日改正・2026年7月1日適用)https://www.jpx.co.jp/derivatives/rules/market-maker/tvdivq0000003l9t-att/t13vrt000001eov8.pdf
5. 大阪取引所「指定マーケットメイカー一覧 / List of Market Makers」(2026年7月1日)https://www.jpx.co.jp/derivatives/rules/market-maker/tvdivq0000003l9t-att/nlsgeu000001qqqb.pdf
6. 日本取引所グループ 用語集「デルタ」https://www.jpx.co.jp/glossary/ta/317.html
7. 国税庁 タックスアンサー No.1522(先物取引に係る雑所得等の課税の特例)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1522.htm
8. 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/kakuteishinkokukankei/kasoutuka/
9. Deribit API Reference(public/ticker:best_bid_price・bid_iv等のフィールド仕様)https://docs.deribit.com/
※本記事は2026年7月時点の情報に基づく一般的な情報提供を目的としており、特定の取引・銘柄への投資を勧誘するものではありません。Deribit公開APIの実測値は取得時点のものであり、市況により変動します。マーケットメイカー制度の内容(対象銘柄・最低数量・インセンティブ等)は取引所の規則改正により変更される場合があるため、最新の規則をご確認ください。ディーラーのポジションやガンマに関する記述は推計に基づく一般的な整理であり、特定の市場参加者の実際の保有を示すものではありません。税制(暗号資産の申告分離課税化の適用時期・対象)は変更される可能性があり、記載には要確認の事項を含みます。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。








