オプションのベアプットスプレッド(Bear Put Spread)とは?最大利益・最大損失の計算式・ベアコールとの使い分け・IVがほぼ効かない理由を忖度なく解説

ICHIZEN Capitalのイチ押しポイント!


  • ベアプットスプレッドは「高いプットを買い、低いプットを売る」下落狙いの戦略
    • 同じ満期・別の権利行使価格で組む。支払(デビット)から始まる型
    • 売ったプットの受取分だけ、単純なプット買いよりコストが下がる
  • 損益の3点セットは「引き算」だけで先に確定できる
    • 最大損失=支払った正味プレミアム/最大利益=行使価格の幅−正味プレミアム
    • 損益分岐点=買ったプットの行使価格−正味プレミアム
  • 「下がると思うが、下げ幅は限定的」と読むときに選ぶ戦略
    • 大暴落を狙うなら単純なプット買い、横ばい〜小幅安ならベアコールスプレッド
    • 売ったプットより下は利益が伸びない=「取り分を先に売った」構造
  • 税金|暗号資産=総合課税最大約55%/国内上場=分離課税20.315%
    • 建玉が2本あるため、損益計算と履歴管理は単純な買いより煩雑になる

ベアプットスプレッドは、下落局面でプットを買いたいがコストは抑えたい、という要求に応える戦略です。忖度なく言うと、コストが下がる代わりに「大きく下げたときの利益」を先に手放しています。計算式・使い分け・IVの落とし穴まで整理します。

木田 陽介

下落を狙うとき、いきなりプットを買うと「当たっているのに勝てない」ことがあります。IVが高い場面で買うと、価格が下げてもIVの低下でプレミアムが目減りするからです。ベアプットスプレッドは売りを1本足すことで、そのコストとIVの影響を薄める型。まず計算式を先に押さえるのが近道です。

木田 陽介
(株)ICHIZEN HOLDINGS

代表取締役

この記事の執筆者/監修者

2016年から仮想通貨トレードを開始。2017年に株式会社CoinOtakuを共同で創業。同年CoinOtakuの代表に就任。2020年に東証二部上場企業に6億円でM&A。bitgetの月間取引高で世界4位を獲得。2025年にCoinOtaku代表を退任し、同年5月に株式会社ICHIZEN HOLDINGSの代表取締役に就任。

監修 木田 陽介
株式会社ICHIZEN HOLDINGS 代表取締役

2016年から仮想通貨トレードを開始。2017年に株式会社CoinOtakuを共同で創業。同年CoinOtakuの代表に就任。2020年に東証二部上場企業に6億円でM&A。bitgetの月間取引高で世界4位を獲得。2025年にCoinOtaku代表を退任し、同年5月に株式会社ICHIZEN HOLDINGSの代表取締役に就任。

目次

オプションのベアプットスプレッドとは?基本情報

ベアプットスプレッドとは、同じ満期で「権利行使価格の高いプットを買い、権利行使価格の低いプットを売る」ことで、下落方向の利益を限定コストで狙う戦略です。「ベア(bear)」は下落相場を指す言葉で、名前のとおり相場が下がると利益が出る組み合わせになっています。プット・スプレッド、弱気プットスプレッドとも呼ばれます。

ポイントは、買うプットのほうが売るプットより価格が高いことです。行使価格が高いプットほど権利としての価値が大きく、プレミアムも高くなるのです。そのため差額を支払ってポジションが始まります。この「支払いから始まる型」をデビット(debit=支払)と呼び、受け取りから始まるクレジット型とは損益の形が逆になります。クレジット型の設計はクレジットスプレッドの記事で解説しています。

満期と行使価格の関係で言えば、動かすのは行使価格だけで、満期は2本とも同じです。この形はバーティカル(垂直)スプレッドに分類され、ベアプットスプレッドはその4つの型のうち「弱気×デビット」に当たります。損益図の読み方そのものはオプションの損益図の記事で整理しています。

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項目内容
構成行使価格の高いプットを買い+行使価格の低いプットを売り(同じ満期・同じ数量)
開始時のお金デビット(支払)。買いプレミアム−売りプレミアム=正味の支払額
相場観弱気(下落)。ただし「売った行使価格あたりまで」の下げを想定
最大利益(行使価格の幅)−(正味支払プレミアム)※売った行使価格以下で確定
最大損失正味支払プレミアム(買った行使価格以上で確定)
損益分岐点買ったプットの行使価格−正味支払プレミアム
別名プット・ベア・スプレッド、弱気プットスプレッド、デビット・プットスプレッド

ベアプットスプレッドの損益計算|3つの式で先に確定する

ベアプットスプレッドの最大の利点は、ポジションを建てる前に最大利益・最大損失・損益分岐点がすべて計算できることです。必要なのは引き算だけで、難しい数式は要りません。買ったプットの行使価格を「高いほう」、売ったプットの行使価格を「低いほう」として、正味の支払額を出すところから始めます。

ベアプットスプレッドの3つの式
  • 正味支払プレミアム=買ったプットの価格−売ったプットの価格
  • 最大損失=正味支払プレミアム(原資産が買った行使価格以上で終わったとき)
  • 最大利益=(買った行使価格−売った行使価格)−正味支払プレミアム(売った行使価格以下で終わったとき)
  • 損益分岐点=買った行使価格−正味支払プレミアム

覚えておくと便利なのは、最大利益と最大損失を足すと、必ず行使価格の幅と一致するという関係です。つまり行使価格の幅は「取り合いになるパイの大きさ」で、正味支払プレミアムをいくら払ったかで、その取り分が決まります。払う額が小さいほど最大利益は大きくなりますが、その分だけ売るプットを原資産から遠ざける必要があり、利益が確定する水準も遠のきます。

日経225オプションでの具体例

実際の数字で追ってみます。松井証券は「バーティカル・ベア・プット・スプレッド」として、日経平均10,000円の局面での例を公開しています(※1)。権利行使価格9,500円のプットを100円で1枚買い、9,000円のプットを40円で1枚売る組み合わせです。オプション1枚あたりの約定代金はプレミアム×1,000円のため、金額は1,000倍して考えます。

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項目計算結果
正味支払プレミアム100円−40円=60円60,000円の支払(デビット)
最大損失60円×1,00060,000円(日経平均が9,500円以上で終了)
最大利益(9,500−9,000−60)×1,000440,000円(日経平均が9,000円以下で終了)
損益分岐点9,500円−60円9,440円

同ページの損益表とも一致します(※1)。日経平均8,500円・9,000円では損益は44万円、9,500円・10,000円・10,500円では6万円の損失と示されており、上の式どおりの結果です。なお損益分岐点9,440円は同ページに記載がなく、式から計算した値になります。同社はこの取引例が手数料を考慮しておらず、満期日まで保有した場合の例であることも明記しています。

この例では6万円のリスクで最大44万円を狙う形になり、リスクリワードは約7.3倍です。数字だけ見ると魅力的ですが、最大利益に届くのは日経平均が10,000円から9,000円まで、つまり1割下げたときだけで、9,440円を下回らなければ損失になります。比率の良さは「当たる確率の低さ」と裏表である点に注意が必要です。

満期の価格ごとに損益がどう変わるか

損益は3つの区間に分かれます。買った行使価格より上では両方とも価値がなくなり、支払ったプレミアムがそのまま損失になるのです。2つの行使価格の間では、下げた分だけ利益が増えていきます。売った行使価格より下では、買いプットの利益と売りプットの損失が同じ幅で増減するため、いくら下げても損益はそれ以上増えません

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満期時の原資産状態損益
買った行使価格より上2本とも権利行使されない正味支払プレミアムの損失(最大損失)
損益分岐点買いプットの価値=支払額±0
2つの行使価格の間買いプットのみ価値を持つ下げるほど利益が増える
売った行使価格より下2本とも権利行使の対象最大利益で頭打ち(それ以上は増えない)

ベアプットスプレッドはいつ使う?他の下落狙い戦略との使い分け

この章の内容
  • ベアプットスプレッドが効くのは「下がるが、大きくは下がらない」と読むとき
  • 単純なプット買い・ベアコールスプレッドとの違い
  • ブルプットスプレッドとの混同を避ける

「下がるが、大きくは下がらない」と読むときの型

松井証券は、この戦略を「相場が下落すると想定するものの、必ず大きく下落するとも言い切れない場合に有効なストラテジー」と説明しています(※1)。ここがベアプットスプレッドの本質です。下落を確信しているなら売りを足す理由はなく、単純にプットを買うほうが利益は伸びます。

逆に言えば、売りを足すという判断は「そこまでは下げないだろう」という読みの表明でもあります。売ったプットの行使価格より下の利益を放棄する代わりに、その分のプレミアムを先に受け取ってコストを下げているのです。下落の方向は当てにいくが、下落の深さには賭けない——この温度感を持てるかどうかが、選ぶ基準になります。

単純なプット買いとの違い

単純なプット買いは、下げれば下げるほど利益が伸びる形です。暴落局面では青天井に近い利益になり得ますが、その分プレミアムが高く、想定より下げなければ支払いがまるごと損失になります。ベアプットスプレッドは売りを1本足すことでコストを下げ、損益分岐点を原資産に近づける効果があります。

先ほどの例で言えば、9,500円のプットを単純に100円で買った場合、損益分岐点は9,400円です。売りを足すと支払いが60円に下がるため、分岐点は9,440円へ40円分だけ手前に来ます。つまり「勝ちやすさ」を少し買って、「大勝ち」を手放した形です。どちらが優れているかではなく、下げ幅の読みに合わせて選ぶものと言えるでしょう。

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比較項目単純なプット買いベアプットスプレッド
初期コスト高い(プレミアム全額)低い(売り分だけ相殺)
最大利益大きい(原資産0まで伸びる)限定(行使価格の幅−支払額)
最大損失支払ったプレミアム正味支払プレミアム(より小さい)
損益分岐点遠い手前(有利)
IV低下の影響強く受ける売りが一部相殺し、影響は薄まる
向く相場観暴落・大幅下落を狙う下げるが深追いしない

ベアコールスプレッドとの違い

どちらも弱気の戦略ですが、お金の流れが逆です。ベアプットスプレッドは支払(デビット)から始まり、下げて初めて利益になります。一方ベアコールスプレッドは受取(クレジット)から始まり、横ばいでも下落でも、上がりさえしなければ利益が残る形です。時間の経過は、デビット型には逆風、クレジット型には追い風になります。

使い分けの目安は明確です。しっかり下げると読むならベアプットスプレッド、横ばい〜小幅安で時間を味方につけたいならベアコールスプレッドが向きます。ただしクレジット型は最大損失が最大利益を上回りやすく、負けの一撃が大きくなりがちです。受取型の設計はクレジットスプレッドの記事で詳しく整理しています。

ブルプットスプレッドとの混同に注意

名前が似ているため取り違えが起きやすい組み合わせです。どちらもプット2本で組みますが、買いと売りが逆になれば相場観も正反対になります。ベアプットは「高いプットを買い・安いプットを売る」で下落狙い、ブルプットは「高いプットを売り・安いプットを買う」で上昇〜横ばい狙いです。

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戦略相場観構成開始時
ベアプットスプレッド下落高いプット買い+安いプット売りデビット(支払)
ベアコールスプレッド下落〜横ばい安いコール売り+高いコール買いクレジット(受取)
ブルプットスプレッド上昇〜横ばい高いプット売り+安いプット買いクレジット(受取)
ブルコールスプレッド上昇安いコール買い+高いコール売りデビット(支払)

IVと時間の影響|「当たっているのに勝てない」を防ぐ仕組み

ここがベアプットスプレッドを選ぶ、もっとも実務的な理由です。多くの解説は「損失が限定される」ことばかりを強調しますが、単純なプット買いの本当の敵は、下落を当てても勝てないIVの落とし穴にあります。この章はその構造を扱います。

相場が急変した局面ではオプションが割高になる

相場が大きく崩れると、IV(インプライドボラティリティ=将来の変動率の予想)が跳ね上がり、オプションのプレミアムは総じて高くなります。この状態でプットを買うと、相場が読みどおり動いても、IVの低下でプレミアムが目減りして利益が消えることが起こるのです。方向を当てたのに勝てない、という現象の正体がこれにあたります。

大阪取引所の解説コラムには、この落とし穴を数字で示した例があります(※2)。2018年2月、大きく下落した後の局面で権利行使価格22,000円のコールを245円で買った場面です。3日後に日経225miniは570円も上昇したにもかかわらず、価格の上昇はわずか35円にとどまりました。

原因はIVの低下でした。同期間にIVは24.63から18.92へ5.7ポイント下がっています。ベガ(IV1ポイントあたりの価格変化)18.88から逆算すると、IVの低下だけで100円以上もプレミアムが押し下げられた計算になります。さらにセータ(時間による減価)で3日約27円が削られました。

この例はコールでの説明ですが、構造はプットでも同じです。急落を見てからプットを買うと、すでにIVは高騰しています。高いIVで買う=割高なプレミアムを掴むということであり、その後にIVが平常へ戻るだけで含み損が生まれます。IVの水準そのものの読み方はIVクラッシュの記事で整理しています。

売りを足すとIVの影響が相殺される(ニアゼロ・ベガ)

ここでベアプットスプレッドが効きます。IVが高いときは、買うプットも売るプットも同じように高いのです。買い建玉のベガと売り建玉のベガが打ち消し合うため、IVが動いてもポジション全体の価格はあまり変わりません。大阪取引所の同コラムは、デビットスプレッドについて「IVが相殺されますからIVの高いことがネックになりません」と述べています(※2)。そのうえでベガもセータも単体買いに比べて4分の1〜5分の1にまで低下すると説明しました。

米国のフィデリティも同じ性質を明示しています。ベアプットスプレッドは買いプットと売りプットで構成されるため、ボラティリティが変化しても価格はほとんど動かない。同社はこれを「ニアゼロ・ベガ(near-zero vega)」と表現しています(※3)。つまりベアプットスプレッドは、IVの高低に賭ける戦略ではありません。IVの影響を消して方向性だけを取りにいく設計だと理解するのが正確でしょう。

木田 陽介

「IVが低いときにデビットスプレッド」という説明をよく見かけますが、ベガがほぼ相殺される構成では、その効き目は思うほど大きくありません。IVの高低で選ぶより、「どこまで下げるか」で選ぶほうが実態に合っています。急落後にプットを単体で買って含み損、という失敗はここから生まれます。

時間の経過は必ずしも敵ではない

単純なプット買いでは、時間の経過は一方的な敵です。一方ベアプットスプレッドでは、原資産が売ったプットの行使価格の近くまで下げている場合、時間の経過はむしろ味方になります。フィデリティは、原資産が売りプットの行使価格付近かそれ以下にあるとき、時間の経過とともにスプレッドの価格は上昇して利益になると説明しています(※3)。売りプットのほうが買いプットより速く価値を失っていくためです。

逆に、原資産が買ったプットの行使価格より上にとどまっている場合は、時間の経過が損失方向に働きます。読みが当たっているときは時間が味方、外れているときは時間が敵という、素直な構造だと言えるでしょう。セータの基本はセータの記事で解説しています。

ベアプットスプレッドのメリット・デメリット(忖度なし)

メリット
  • 最大利益・最大損失・損益分岐点を、建てる前に引き算だけで確定できる
  • 売りプットの受取分だけコストが下がり、損益分岐点が手前に来る
  • IVの影響がほぼ相殺され、高IV局面で買っても不利になりにくい
  • 読みが当たっている間は、時間の経過が味方に回る
  • 損失が限定されるため、損切りに追われず一時的な逆行に耐えやすい
デメリット・注意点
  • 暴落しても利益は頭打ち。売った行使価格より下の利益はすべて放棄している
  • 下落しなければ負ける。横ばいで耐えるクレジット型と違い、動かないと損失
  • 建玉が2本=手数料とスプレッド(売買コスト)が2倍かかる
  • 売り建玉を含むため、証拠金の差し入れが必要になるのが一般的(各社の規定を要確認)
  • 米国株オプションなど早期権利行使のある商品では、売りプットが期限前に権利行使される可能性がある
  • ブルプットスプレッドやレシオ・プット・スプレッドとの取り違えが起きやすい

とくに注意したいのが、名前の似たレシオ・プット・スプレッドとの混同です。こちらは買いより売りの枚数を多くする戦略で、松井証券の例では10,000円のプットを100円で1枚買い、9,500円のプットを40円で2枚売る形が紹介されています(※4)。同社はこの戦略の最大損失を「原資産の価値がゼロになるまで増大」と明記しています。

実際、同ページの損益表では日経平均9,500円で48万円の利益となる一方、8,500円まで下げると52万円の損失に転じます(※4)。下げすぎると損失が膨らむ、つまり損失が限定されない別物の戦略なのです。ベアプットスプレッドは売りと買いを「同じ枚数」で組むのが絶対条件で、ここが崩れると性質が根本から変わります。なお松井証券は、売り建てたプットを一部買い戻せばベアプットスプレッドに組み直せるとも説明しています(※4)。

ベアプットスプレッドは日本のどこで組める?

日経225オプションなら確実に組める

日本で確実に組めるのは、大阪取引所に上場している日経225オプションです。松井証券・SBI証券・楽天証券などが取り扱っており、松井証券が自社でベアプットスプレッドの戦略ページを公開していること自体が、実際に組めることの裏づけになります(※1)。取引単位はオプション価格×1,000円です(※5)。

2023年5月29日には、通常の10分の1のサイズである日経225ミニオプションも上場しており、少額から試しやすくなりました(※6)。2本の建玉を使うベアプットスプレッドは1枚あたりの金額が大きくなりやすいため、練習にはミニサイズが向いていると言えるでしょう。

日経225オプションには早期権利行使がない

ここは日本の投資家にとって重要な、かつ多くの解説が触れていない論点です。米国株オプションでは、売り建玉が満期前に権利行使される「早期権利行使(アサインメント)」のリスクがあります。フィデリティは、米国のオプションは営業日ならいつでも権利行使でき、売り建玉の保有者は義務を果たす時期を自分で選べないと明記しています(※3)。

一方、大阪取引所の制度概要では、日経225オプションの権利行使日はSQ日と定められています(※5)。権利行使できる日が満期日だけに限られるため、日経225オプションで組むベアプットスプレッドには早期権利行使の心配がありません。海外の解説記事をそのまま読むと過剰に不安になりますが、国内の商品では前提が違うのです。

暗号資産オプションで組むのは現状ハードルが高い

ビットコインのベアプットスプレッドを日本から組もうとすると、話は一気に難しくなります。当メディアが調べた範囲では、暗号資産のオプション取引を提供している国内の登録業者は確認できませんでした(2026年7月時点)。国内取引所は現物とレバレッジ取引が中心です。

海外取引所についても状況は厳しくなっています。オプションを提供していたBybitは、金融庁による海外業者への規制強化を背景に、2026年1月22日を期限として日本居住者向けサービスを終了しました(※7)。世界最大級のBTCオプション市場であるDeribitも、日本居住者向けの提供停止が報じられています。「日本から暗号資産のベアプットスプレッドを合法的に組める場所」は、現時点で確認できていないというのが忖度のない結論です。

検索上位には海外取引所の解説記事が並びますが、その多くは日本居住者が実際には使えない取引所のものです。まずは国内で合法に組める日経225オプションから始めるのが現実的でしょう。

ICHIZEN Capitalの視点|「ベガニュートラルに寄せる」という設計思想

当社が自社で継続しているオプション市場のレポートでも、ベアプットスプレッドは下落局面の実務的な選択肢として繰り返し登場します。注目すべきは、その位置づけが「損失限定の戦略」ではなく「ベガを消すための設計」として語られている点です。

自社レポートでは、本格的な下落トレンドを狙う際の選択肢を3つ挙げています。ベアプットスプレッド・カレンダースプレッド・ダイアゴナルスプレッドです。そのうえで、これらは設計を誤ると時間価値の減少やIV低下によって損失が発生しやすくなると整理しました。とくに満期が近いオプションではセータの減価が急速に進むため、エントリータイミングが重要になる、という指摘です。

さらに踏み込んで、「下落を狙ってプットを買っても、同時にIVが低下すれば、価格下落による利益がボラティリティ低下によって相殺される可能性がある。そのためプットスプレッドを構築する場合は、ベガニュートラルに近い形で設計することが望ましい」という考え方を示しています。別の回でも同じ発想が登場しました。IVの期間構造がコンタンゴ(期先のIVが高い正常な形状)へ戻る局面において、ベガのリスクを排除しつつ下落方向から利益を抽出する手段。その最有力として、同一満期・異なる権利行使価格のプットを組み合わせるバーティカル・プット・スプレッドを挙げています。

ここで重要なのは、この自社の見解が外部の一次情報と独立して同じ結論に至っている点です。大阪取引所の「ベガもセータも単体買いの4分の1〜5分の1になる」(※2)、フィデリティの「ニアゼロ・ベガ」(※3)。三者が別々の道筋で同じ場所にたどり着いています。ベアプットスプレッドの本質は損失限定よりもむしろ、IVという読みにくい変数を消して、方向性の勝負に持ち込むことにあるのです。2025年12月のレポートは、この戦略を端的に「下落方向へのヘッジコストを下げる」手段として位置づけています。

木田 陽介

忖度なく言えば、ベアプットスプレッドは「地味だが、負け方が計算できる」戦略です。急落を当てて大儲け、という絵は描けません。ただ、IVが荒れる局面ほど単体買いは報われにくい。方向の読みだけで勝負したいなら、ベガを消しにいく発想は理にかなっています。なおヘッジフローは値動きを増幅・抑制し得ますが、「誰かが相場を支配している」といった断定はできません。

ベアプットスプレッドと税金|器で税率がまったく違う

同じベアプットスプレッドでも、どの商品で組むかによって税率が大きく変わります。ここは上位の解説記事がほとんど触れていない論点ですが、手取りに直結する部分です。

日経225オプションなど国内の上場オプションは、先物取引に係る雑所得等として申告分離課税(税率20.315%)が適用されます(※8)。他の所得と合算されず、税率が一定である点が特徴です。一方、暗号資産の取引による利益は、原則として雑所得の総合課税となり、他の所得と合算して累進税率が適用されるため、住民税を含めると最大約55%に達します(※9)。

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組む商品課税方式税率
日経225オプション(国内上場)申告分離課税(先物取引に係る雑所得等)20.315%
暗号資産のオプション雑所得・総合課税(原則)累進・住民税込みで最大約55%

なお暗号資産については、令和8年度税制改正大綱で申告分離課税へ移行する方針が示されていますが、2026年7月時点で適用時期・対象範囲は確定していません。「暗号資産のオプションも対象に含まれるか」も未確定であり、現時点の断定は避けるべきです。税制の全体像は暗号資産の税金の記事で整理しています。

ベアプットスプレッドは建玉が2本あるため、決済のたびに損益が確定し、履歴管理は単体取引より煩雑になります。国内上場と暗号資産で税率が倍以上違う点も要注意。取引履歴はこまめに残し、判断に迷えば税理士へ相談してください。

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よくある質問

ベアプットスプレッドとは何ですか?どういう時に使う戦略ですか?

同じ満期で、権利行使価格の高いプットを買い、低いプットを同じ枚数だけ売る戦略です。相場の下落で利益が出ます。松井証券は「相場が下落すると想定するものの、必ず大きく下落するとも言い切れない場合に有効なストラテジー」と説明しています。下落は見込むが深追いはしない、というときに使います。

どの行使価格のプットを買って、どれを売るんですか?

権利行使価格が「高いほう」のプットを買い、「安いほう」のプットを売ります。逆にすると、上昇〜横ばいで利益が出るブルプットスプレッドという別の戦略になってしまいます。満期(限月)は2本とも同じにそろえ、枚数も同数にするのが条件です。

プレミアムは払うんですか?受け取るんですか?

差額を支払います。行使価格が高いプットのほうが価格が高いため、買いの支払いが売りの受取を上回るからです。この「支払いから始まる型」をデビットスプレッドと呼びます。受取から始まるベアコールスプレッドやブルプットスプレッドとは、ここが決定的に違います。

最大利益・最大損失・損益分岐点はどう計算しますか?

最大損失=正味の支払プレミアム、最大利益=(行使価格の幅)−(正味支払プレミアム)、損益分岐点=買ったプットの行使価格−正味支払プレミアムです。なお一部の解説やAIの要約では最大利益と最大損失が逆に書かれていることがあります。支払った額より大きく損することはないと覚えておくと取り違えを防げます。

ベアコールスプレッドとはどっちを使えばいいですか?

しっかり下げると読むならベアプットスプレッド、横ばい〜小幅安で時間を味方につけたいならベアコールスプレッドが向きます。ベアプットは下落しないと利益が出ませんが、ベアコールは上がりさえしなければ利益が残ります。ただしベアコールは最大損失が最大利益を上回りやすく、負けの一撃が大きくなりがちです。

ただプットを買うのと、どっちが有利ですか?

下げ幅の読み次第です。大幅な下落を確信するなら単純なプット買いのほうが利益は伸びます。小幅な下落を見込むならベアプットスプレッドが有利で、売り分だけコストが下がり損益分岐点も手前に来るのです。加えてIV低下や時間経過の悪影響を受けにくい利点もあります。

ベアプットスプレッドのデメリット・リスクは何ですか?

最大の弱点は、暴落しても利益が頭打ちになることです。売った行使価格より下の利益はすべて放棄しています。また下落しなければ支払った分が損失になり、建玉が2本あるため手数料も2倍かかります。売り建玉を含むため証拠金の差し入れが必要になるのが一般的で、詳細は各社の規定を確認してください。

IV(ボラティリティ)が高いときに組むと不利ですか?

ほとんど影響しません。IVが高いときは買うプットも売るプットも同じように高くなり、影響が相殺されるためです。大阪取引所はデビットスプレッドについて「IVが相殺されますからIVの高いことがネックになりません」と述べ、ベガもセータも単体買いの4分の1〜5分の1に低下すると説明しています。フィデリティもこれを「ニアゼロ・ベガ」と表現しています。

満期前に権利行使される心配はありますか?

日経225オプションではありません。大阪取引所の制度概要で権利行使日はSQ日と定められており、満期日にしか権利行使できないためです。一方、米国株オプションは営業日ならいつでも権利行使が可能で、売り建玉が期限前に割り当てられる早期権利行使のリスクがあります。海外の解説を読むときは、この前提の違いに注意してください。

日本のどこで組めますか?日経225オプションでできますか?

できます。大阪取引所に上場する日経225オプションが現実的な選択肢で、松井証券・SBI証券・楽天証券などが取り扱っています。2023年5月29日には10分の1サイズの日経225ミニオプションも上場し、少額から試せるようになりました。一方、暗号資産のオプションを提供する国内の登録業者は確認できません(2026年7月時点)。

ビットコインでベアプットスプレッドは組めますか?

日本居住者には現状ハードルが高いのが実情です。オプションを提供していたBybitは2026年1月22日を期限に日本居住者向けサービスを終了し、Deribitも日本居住者向けの提供停止が報じられています。国内の登録業者で暗号資産オプションを扱うところも確認できないため、合法的に組める場所は現時点で確認できていません。

ベアプットスプレッドの利益に税金はかかりますか?

かかります。日経225オプションなど国内上場オプションは先物取引に係る雑所得等として申告分離課税(20.315%)、暗号資産のオプションは原則として雑所得の総合課税(住民税込みで最大約55%)です。暗号資産の分離課税化は方針が示されていますが、適用時期・対象は2026年7月時点で確定していません。

初心者でもできますか?レシオ・プット・スプレッドとの違いは?

損失が限定されるため、方向性戦略の入り口としては扱いやすい部類です。ただし売りと買いを必ず同数にしてください。名前の似たレシオ・プット・スプレッドは売り枚数を多くする戦略で、松井証券は最大損失が「原資産の価値がゼロになるまで増大」すると明記しています。同数で組む限り、損失は支払額に限定されます。

まとめ|下落の「方向」だけを取りにいく戦略

ベアプットスプレッドは、権利行使価格の高いプットを買い、低いプットを同じ枚数だけ売る、支払型(デビット)の下落狙い戦略です。最大損失は支払った正味プレミアム、最大利益は行使価格の幅から支払額を引いた分、損益分岐点は買った行使価格から支払額を引いた水準。この3つを引き算だけで先に確定できるのが最大の強みと言えるでしょう。

そして本質は損失限定よりも、IVの影響を相殺して方向性の勝負に持ち込めることにあります。大阪取引所はベガもセータも単体買いの4分の1〜5分の1になると示し、フィデリティはこの性質を「ニアゼロ・ベガ」と呼んでいます。当社の自社レポートも「ベガニュートラルに近い形で設計することが望ましい」と述べており、三者が独立して同じ結論に至っています。急落を見てから慌ててプットを単体で買い、IVの低下で含み損を抱える——その失敗を避けるための型なのです。

日本では日経225オプションが現実的な選択肢で、権利行使日がSQ日に限られるため早期権利行使の心配もありません。一方で暗号資産オプションは、Bybitの日本撤退などにより合法的に組める場所が確認できない状況です。売りと買いを必ず同数にすること、最大利益と最大損失を取り違えないこと——この2点を守り、まずはミニサイズの少額から試していきましょう。

最後にもう一度。ベアプットスプレッドは「大勝ち」を先に手放す代わりに、負け方を計算できる戦略です。下げの深さに賭けるなら単純なプット買い、方向だけ取るならスプレッド。器によって税率が20.315%と最大約55%で倍以上違う点も、忘れずに確認してください。

参考文献

1. 松井証券「バーティカル・ベア・プット・スプレッド」https://www.matsui.co.jp/fop/options/useful/vertical-bear-put-spread/
2. 大阪取引所 北浜投資塾「デビットスプレッド戦略」https://www.jpx.co.jp/ose-toshijuku/column/putoption/05.html
3. Fidelity「Bear put spread」https://www.fidelity.com/learning-center/investment-products/options/options-strategy-guide/bear-put-spread
4. 松井証券「レシオ・プット・スプレッド」https://www.matsui.co.jp/fop/options/useful/ratio-put-spread/
5. 日本取引所グループ「日経225オプション 制度概要」https://www.jpx.co.jp/derivatives/products/domestic/225options/01.html
6. 日本取引所グループ「日経225オプション 商品概要」https://www.jpx.co.jp/derivatives/products/domestic/225options/index.html
7. CoinPost「バイビット、日本居住者向けサービス終了へ」2025年12月https://coinpost.jp/?p=676379
8. 国税庁 タックスアンサー No.1522(先物取引に係る雑所得等の課税の特例)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1522.htm
9. 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/kakuteishinkokukankei/kasoutuka/

※本記事は2026年7月時点の情報に基づく一般的な情報提供を目的としており、特定の取引・銘柄への投資を勧誘するものではありません。数値例・損益の記述は説明のための一般例であり、実際の損益・最大損失は商品・証券会社の仕様、権利行使やアサインメントの有無により異なります。引用した取引例は手数料を考慮しておらず、満期日まで保有した場合の例です。証拠金の要否・計算方法は各社の規定により異なるため、必ずご自身でご確認ください。手数料・税制(暗号資産の分離課税化の適用時期・対象)は変更される場合があり、記載には要確認の事項を含みます。オプション戦略は損失回避や利益を保証するものではなく、価格変動により損失が生じる可能性があります。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。

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