金融庁が暗号資産の「販売所」誘導に懸念|交換業界への意見交換会で示した論点(本人確認のICチップ義務化・FATF対応)を解説【2026年最新】

「忙しい人向け」ニュース要約


  • 金融庁が2026年7月15日の意見交換会で暗号資産の交換業界に示した論点を、9月17日に公表した
  • 最大の焦点は、割高になりやすい「販売所」への誘導への懸念。取引所との導線を顧客本位に見直すよう求めた
  • 対面の本人確認は2027年4月からICチップの読み取りが必須になり、それ以外の方法は原則廃止される
  • FATF声明を受け、イラン・北朝鮮への対抗措置と暗号資産の移転通知義務の徹底も要請された
水野 倫太郎

処分の発表ではなく、金融庁が業界へ出した「宿題」の公開です。
個人にいちばん効くのは、販売所の割高さと本人確認の変更です。

水野 倫太郎
(株)ICHIZEN HOLDINGS

代表取締役

この記事の執筆者/監修者

慶應義塾大学経済学部卒。2017年米国留学時にブロックチェーンと出会い、Web3の業界に足を踏み入れる。2018年、仮想通貨メディアCoinOtakuに入社。2019年には同社のCMOに就任し、2020年に東証二部上場企業とM&Aを行い、様々なクリプト事業を展開。2022年に現在代表取締役社長を務めるICHIZEN HOLDINGSを立ち上げ様々なWeb3事業を手がける。複数のWeb3系事業に出資を行いながら有識者として活動。

監修 水野 倫太郎
株式会社ICHIZEN HOLDINGS 代表取締役

慶應義塾大学経済学部。2017年米国留学時にブロックチェーンと出会い、Web3の業界に足を踏み入れる。2018年には、日本有数の仮想通貨メディアCoinOtakuに入社。2019年には同社のCMOに就任し、2020年に東証二部上場企業とM&Aを行い、様々なクリプト事業を展開する。2022年に現在代表取締役社長を務めるICHIZEN HOLDINGSを立ち上げ様々なWeb3事業を手がける。複数のWeb3系事業に出資を行いながら有識者として活動。

目次

金融庁は何を公表したのか|7月の意見交換会で示した「論点」

金融庁は2026年9月17日、同年7月15日に日本暗号資産等取引業協会と行った意見交換会で提起した「主な論点」を公表しました(※1)。文書のタイトルは「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」で、金融庁が業界の自主規制団体に対して口頭で伝えた要請を、後日まとめて公開したものです。

まず押さえておきたいのは、これは行政処分や新しい法令ではなく、金融庁と業界団体の「対話の記録」だという点です。個別の取引所を名指しで処分した発表ではありません。ただし、金融庁が今どこを問題視し、業界にどんな対応を求めているかがそのまま読み取れるため、利用者にとっても今後のサービス変更を先読みできる資料になります。

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項目内容
文書名業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
意見交換会の開催日2026年7月15日
相手団体日本暗号資産等取引業協会(自主規制団体)
公表日2026年9月17日
性格処分・法令ではなく、金融庁から業界への要請・論点の記録
金融庁「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」より作成

論点は大きく6つの塊に分かれますが、個人利用者に直接効いてくるのは「販売所への誘導」「本人確認(KYC)の変更」「マネロン対策とFATF対応」の3つです。以下、この順に見ていきます。

最大の焦点|割高な「販売所」への誘導に懸念

今回の論点で最も注目されているのが、利用者保護の強化に関する指摘です。金融庁は「取引所」よりも収益性の高い「販売所」での取引へ、利用者を誘導しているのではないかという懸念を、金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」の報告書を踏まえて示しました(※1)。

金融庁が意見交換会で示した論点 販売所への誘導への懸念 利用者保護の強化の該当部分
出所:金融庁「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」(2026年7月15日開催分)。「取引所」より収益性の高い「販売所」での取引を誘導しているのではないかとの懸念が記されている

そもそも「販売所」と「取引所」は、同じ暗号資産を売買する場でも仕組みが違います。販売所は事業者が提示する価格で売買する方式で、買値と売値の差(スプレッド)が実質的なコストになります。一方の取引所は利用者同士の注文を付け合わせる方式で、明示された取引手数料はかかるものの、価格差は板の状況で決まり、販売所より狭くなりやすいのが一般的です。

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比較販売所取引所
取引の相手暗号資産の事業者ほかの利用者(板)
主なコスト買値と売値の差(スプレッド)明示された取引手数料
コストの見えやすさ見えにくい(価格に内包)見えやすい(料率で表示)
操作の手軽さ手軽・初心者向けの導線が多い板を見る操作が必要
販売所と取引所の一般的な違い。金融庁が問題視したのは、割高になりやすい販売所へ利用者を誘導する導線の設計

金融庁が根拠に挙げたのが、2024年11月に施行された金融サービス提供法の改正です。この改正で、暗号資産交換業者を含む全ての金融事業者に「顧客等の最善の利益を勘案しつつ、誠実かつ公正に業務を遂行する義務」が導入されました(※1)。手軽だという理由で割高な販売所へ利用者を誘導する画面設計が、この「顧客本位」の義務に照らして適切かを問うています。

金融庁は具体的に、「販売所」「取引所」のUI(画面)における導線をはじめとして、何が顧客本位かを業界とよく対話していきたいとし、あわせて改正金商法の下で整える自主規制規則でも、適切な情報提供や適合性原則の在り方を議論するよう求めました。つまり、今後は各社のアプリで販売所と取引所の見せ方が見直される可能性があります。取引所ごとのコスト構造は国内・海外取引所の比較で整理しています。

本人確認(KYC)が2027年4月から変わる|対面はICチップ読み取り必須に

マネロン対策の一環として、対面での本人確認の方法が2027年4月1日から変わります。2026年3月6日に犯罪収益移転防止法の施行規則が改正され、対面で写真付きの本人確認書類の提示を受ける現行の方法について、対象をICチップ付きの書類に限定したうえで、そのICチップの情報の読み取りを必須とすることが決まりました(※1)。それ以外の確認方法は原則として廃止されます。

犯罪収益移転防止法施行規則の改正 対面の本人確認をICチップ付き書類の読み取り必須とし2027年4月1日施行
出所:金融庁「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」。対面の本人確認をICチップ付き書類の読み取りに限定し、2027年4月1日施行とされている

これは暗号資産だけの話ではなく、銀行など金融機関全体に共通する見直しですが、暗号資産交換業者も対象に含まれます。非対面(オンライン)の本人確認については、すでに2025年6月に同様の改正が行われており、今回の対面分もそれと同じ2027年4月1日の施行にそろえられました。

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区分現行2027年4月1日以降
対面の確認方法写真付き書類の提示など複数の方法ICチップ付き書類の読み取りに限定(それ以外は原則廃止)
対象書類の例運転免許証・マイナンバーカード等ICチップを搭載した書類
施行日2027年4月1日(非対面の改正と同日)
犯罪収益移転防止法施行規則の改正(2026年3月6日公布)をもとに作成。対面での本人確認方法の見直し

利用者側で直ちに何かをする必要はありませんが、施行後は本人確認の際にICチップを読み取れる書類が前提になります。マイナンバーカードのようにICチップを搭載した書類が、対面確認の実務で標準になっていくと見込まれます。

マネロン対策とFATF声明|イラン・北朝鮮への対抗措置

3つ目の柱が、国際的なマネロン対策の枠組みへの対応です。金融庁は、金融活動作業部会(FATF)が2026年2月11日から13日に開いた全体会合で採択した声明を踏まえ、業界に対応の徹底を求めました(※1)。この声明では、資金洗浄・テロ資金供与対策に重大な欠陥がある国・地域として、北朝鮮とイランを「対抗措置」の対象、ミャンマーを厳格な顧客管理の対象としています。

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国・地域FATF声明での位置づけ求められる対応
北朝鮮対抗措置の対象最も厳しい対抗措置の適用
イラン対抗措置の対象(今回追加)支店設置の拒否・コルレス関係の禁止など
ミャンマー厳格な顧客管理の対象リスクに見合った厳格な顧客管理
2026年2月11〜13日のFATF全体会合で採択された声明での国・地域の区分。金融庁「意見交換会で提起した主な論点」より作成

とくにイランについては、今回から対抗措置が追加されました。金融機関や暗号資産サービスプロバイダーに対し、イランの金融機関等の支店設置を拒否すること、イラン国内への支店設置を禁止すること、イランに所在する者との暗号資産取引を含む金融取引をリスクに応じて制限すること、新たなコルレス(銀行間の取引)関係の構築を禁止することなどが求められています(※1)。

これを受けて金融庁を含む関係省庁は、2026年4月13日に関係する金融機関・協会へ要請文を発出しました。要請の中身は、犯罪収益移転防止法にもとづく取引時確認義務、疑わしい取引の届出義務、そして暗号資産の移転に係る通知義務(トラベルルール)を徹底することです。暗号資産を送る際に送付元・送付先の情報を業者間で共有する仕組みが、より厳格に運用されていく方向だと読めます。

金融庁が業界に徹底を求めた3つの義務
  • 取引時確認義務(取引の相手方の本人確認を確実に行う)
  • 疑わしい取引の届出義務(マネロンの疑いがある取引を当局へ届け出る)
  • 暗号資産の移転に係る通知義務(送付元・送付先の情報を業者間で共有=トラベルルール)

あわせて金融庁は、2026年6月17日から19日のFATFプレナリー(総会)の結果も紹介しています。クロスボーダー送金の透明性に関する改訂勧告16のガイダンス案が市中協議に入ったこと、DeFi(分散型金融)の規制上の課題に関する報告書が採択されたことなどが挙げられ、暗号資産をめぐる国際ルールが引き続き強化される流れにあります。

水野 倫太郎

個人が制裁国と取引することはまずありませんが、送金時の情報共有(トラベルルール)は全員に関わります。
送付先の入力や確認が今より丁寧になる、と考えておくとよいです。

そのほかの論点|自主規制の強化・サイバー対策・リテラシー向上

個人利用者に直接効く3点以外にも、金融庁は業界団体の運営や体制づくりに関する要請を出しています。改正金商法の成立が視野に入るなか、業界の自主規制機能を早く立ち上げて機能させることが全体の通奏低音になっています。主な論点を整理すると次のとおりです。

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論点金融庁が求めた主な内容
協会運営・ガバナンス社会的位置づけの高まりに応じ、理事の在り方を整理し信頼される協会にする
自主規制機能の強化改正金商法の成立を見据え、各種委員会の早期立ち上げと機能強化を加速する
サイバーセキュリティ高度なAIを悪用した攻撃増加に備え、業界の共助組織(JPCrypto-ISAC)を機能させる
利用者のリテラシー向上金融経済教育推進機構(J-FLEC)と連携し、詐欺被害防止や啓発に取り組む
金融犯罪対策暗号資産を使った詐欺やオンラインカジノの賭博事犯の防止に引き続き対応する
金融庁「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」より、体制・自主規制に関する要請を整理

これらは事業者・業界団体側の宿題であり、利用者がすぐに何かをする話ではありません。ただ、詐欺被害防止やリテラシー向上が繰り返し強調されている点は、暗号資産を使った投資詐欺が引き続き深刻であることの裏返しでもあります。無登録の事業者による勧誘には引き続き注意が必要です。

ICHIZEN Capitalの視点|「推進」ではなく「利用者保護」が主題

今回の論点集を通して読むと、テーマの重心が暗号資産の「推進」ではなく「利用者保護」と「国際協調」に置かれていることがはっきりします。同じ金融庁でも、令和9年度の予算要求ではオンチェーン技術を成長投資の手段として扱っていました。今回はそれと対をなす「見張る側」の論点が並んでいます。

そのなかで、個人が日々の取引で最も損得に直結するのは販売所への誘導の部分だと考えています。ハッキングや制裁国との取引は多くの人にとって遠い話ですが、割高な販売所で売買を続けると、スプレッドという見えにくいコストが積み上がります。金融庁が画面の導線にまで踏み込んだのは、この「気づかないうちに払っているコスト」を問題視したからです。取引に慣れてきたら、同じ銘柄でも取引所側の板で売買する習慣をつけるだけで、負担を下げられます。

今回の論点から読み取れること
  • 重心は暗号資産の推進ではなく利用者保護と国際協調
  • 個人に一番効くのは割高な販売所への誘導の見直し
  • 本人確認は2027年4月からICチップ読み取りが前提に
  • 送金時のトラベルルールが今より厳格に運用される

なお、これは意見交換会での要請の記録であり、記載された制度改正の細部や施行日は今後の運用で変わり得ます。暗号資産の利益にかかる税金の考え方は仮想通貨の税金の解説にまとめています。

よくある質問

金融庁の意見交換会の論点はいつ公表されましたか?

2026年9月17日に公表されました。意見交換会そのものは同年7月15日に、金融庁と日本暗号資産等取引業協会の間で開かれたもので、その場で金融庁が提起した主な論点が後日まとめて公開された形です。

「販売所」への誘導への懸念とは何ですか?

取引所より手数料負担が大きくなりやすい販売所へ、利用者を誘導しているのではないかという金融庁の指摘です。金融審議会のワーキング・グループ報告書での懸念を踏まえたもので、アプリの画面の導線が顧客本位かどうかを業界と対話していくとしています。

販売所と取引所は何が違うのですか?

販売所は事業者が提示する価格で売買する方式で、買値と売値の差(スプレッド)が実質のコストになります。取引所は利用者同士の注文を付け合わせる方式で、価格差は板の状況で決まり、一般に販売所より狭くなりやすいとされます。手軽さは販売所、コスト面は取引所に分があります。

暗号資産の本人確認のルールはいつ変わりますか?

2027年4月1日からです。2026年3月6日に犯罪収益移転防止法の施行規則が改正され、対面の本人確認はICチップ付き書類の読み取りが必須になります。非対面の本人確認も同じ日に施行される見直しがすでに決まっています。

ICチップの読み取りが必須になると何が変わりますか?

対面での本人確認では、書類の写真を見せるだけの方法が原則できなくなり、ICチップを読み取れる書類が前提になります。マイナンバーカードのようにICチップを搭載した書類が、実務で標準になっていくと見込まれます。利用者側が施行前に特別な手続きをする必要はありません。

FATFの声明で日本の暗号資産取引はどう変わりますか?

直接の変化は、業者間のマネロン対策が厳格になる点です。金融庁は2026年4月13日に、取引時確認義務・疑わしい取引の届出義務・暗号資産の移転に係る通知義務(トラベルルール)の徹底を業界へ要請しました。個人の取引では、送金時の情報確認が今より丁寧になる方向です。

イランや北朝鮮が関係すると自分の取引に影響しますか?

一般の個人が制裁対象国と取引することはまずないため、直接の影響は限定的です。要請の対象は主に金融機関や暗号資産事業者側で、対抗措置国との事業関係やコルレス関係の禁止などが求められています。個人に効くのは、その裏側で送金時の確認が厳格化する点です。

この論点は暗号資産の規制強化ですか?

利用者保護とマネロン対策の面では強化の方向です。ただし処分や新法ではなく、金融庁が業界へ出した要請の記録です。同じ金融庁でも予算面ではオンチェーン技術の利活用を成長投資として位置づけており、規制強化一辺倒ではなく、推進と監督が並行しているのが実態です。

まとめ|個人に効くのは販売所・本人確認・送金の3点

この記事のまとめ
  • 7月15日の意見交換会の論点を9月17日に公表
  • 割高な販売所への誘導に金融庁が懸念
  • 対面の本人確認は2027年4月からICチップ必須
  • FATF声明で送金のトラベルルール徹底を要請
  • 処分ではなく業界への要請の記録

金融庁が公表した論点は、暗号資産の交換業界に向けた宿題の一覧です。処分や新しい法律ではありませんが、金融庁が今どこを問題視しているかがそのまま表れており、利用者にとっては今後のサービス変更を先読みできる資料になります。

個人の立場で押さえるべきは3点です。第一に、割高になりやすい販売所への誘導が見直される可能性があること。第二に、対面の本人確認が2027年4月からICチップの読み取り前提になること。第三に、送金時のトラベルルールが今より厳格に運用されていくことです。いずれもすぐに手続きが必要な話ではありませんが、日々の取引の前提として知っておくと、無用なコストやトラブルを避けやすくなります。

※1 金融庁「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」(2026年7月15日開催 日本暗号資産等取引業協会)https://www.fsa.go.jp/common/ronten/202607/05.pdf

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