日本ビットコイン産業がビットコイン現物出資で約8億円調達|国内2例目、ANAPは受け手から出し手へ。会社法の手順と海外の前例

「忙しい人向け」ニュース要約
- 日本ビットコイン産業が10月28日、約8億円を全額ビットコインの現物出資で調達と発表
- 出し手はフルグル(Fulgur Ventures日本拠点)とANAP子会社ALC。給付は11月2日
- 国内2例目。1例目は2025年7月のANAP(584BTC受け入れ)で、今回は出す側に
- 用途はライトニングのルーティング流動性と決済インフラ「aurora」の開発
※相場やニュースの日々の見方は、水野のX(@mizuno_ichizen)で発信中です。
水野 倫太郎ビットコインを円に替えずに、そのまま次の事業の資本にする。
国内初のANAPが今度は出す側に回ったことで、この調達法が1回限りでなくなりました。


監修 水野 倫太郎
株式会社ICHIZEN HOLDINGS 代表取締役
慶應義塾大学経済学部。2017年米国留学時にブロックチェーンと出会い、Web3の業界に足を踏み入れる。2018年には、日本有数の仮想通貨メディアCoinOtakuに入社。2019年には同社のCMOに就任し、2020年に東証二部上場企業とM&Aを行い、様々なクリプト事業を展開する。2022年に現在代表取締役社長を務めるICHIZEN HOLDINGSを立ち上げ様々なWeb3事業を手がける。複数のWeb3系事業に出資を行いながら有識者として活動。
何が起きたのか|10月28日、約8億円を全額ビットコインで第三者割当増資
- 調達総額8億43,580円。割当先はフルグル合同会社とANAPライトニングキャピタル(ALC)
- 出資は全額ビットコインの現物。給付予定日は2026年11月2日、割当額は非公表
- ALCとはライトニングのルーティング事業で業務提携も締結
2026年10月28日、ビットコイン決済インフラを手がける日本ビットコイン産業(東京都大田区、代表取締役 久世大亮氏)は、フルグル合同会社と株式会社ANAPライトニングキャピタル(ALC)を割当先とする総額約8億円の第三者割当増資を発表しました。出資は全額ビットコインによる現物出資で、給付予定日は11月2日です。2社それぞれの割当額は公表されていません。


フルグルは、2019年からビットコインとライトニングネットワークの領域だけに投資してきた米VC、Fulgur Venturesの日本拠点です。Blockstreamの2億1,000万ドルの調達を主導し、2025年にNasdaqへ上場したFoldの主要株主でもあります。ALCは東証スタンダード上場のANAPホールディングス(3189)の子会社で、グループのビットコイン保有を担う会社です。日本ビットコイン産業はALCと、ライトニングネットワークのルーティング事業に関する業務提携基本契約も結びました。
使い道|出資されたビットコインは、ライトニングの流動性としてそのまま置かれる
- 資金使途は決済インフラ「aurora」の開発、人材採用、ルーティング事業、R&D
- ルーティング事業はBTCをチャネルに置いて決済を中継する。円転が要らない
- 狙いはカード決済が止められた国内コンテンツの越境販売
ライトニングネットワークは、ビットコインのブロックチェーンの外で送金を処理し、即時・低コストの少額決済を可能にする技術です。支払いの経路になるチャネルにはあらかじめビットコインを置いておく必要があり、この経路を提供して他人の支払いを中継するのがルーティングです。今回ALCが出すビットコインは、日本ビットコイン産業が運用するチャネルに流動性として置かれます。円に替える工程がなく、出資された資産がそのまま事業資産になる点が、他の現物出資と違います。
- ALCとフルグルが、ビットコインを現物のまま出資する円に換金せず、日本ビットコイン産業の株式と引き換えにBTCを給付する(11月2日予定)
- 受け取ったBTCを、ライトニングのチャネルに流動性として置くここが今回の核。資産を売らずに、決済を中継する経路の元手として使う
- 海外の顧客から日本の事業者への支払いを中継し、手数料を得るカードを持たない顧客や、カード規約で止められた商品の代金を受け取れる
出所:日本ビットコイン産業のプレスリリース(2026年10月28日)をもとに作成(ICHIZEN作成)。チャネルの規模や手数料率は非公開
同社が解決したい課題は、国際ブランドのカード決済が規約を理由に止まることです。2024年には日本の法律上は問題のない作品を扱う国内のコンテンツ販売サイトでカード決済の停止が相次ぎ、2025年7月には海外の大手ゲーム配信プラットフォームで100本超の作品が決済処理業者の規約を理由に配信停止になりました。同社はこの逸失売上を年間数百億円規模と試算し、発行者も取引ごとの承認者もいないビットコインを受け取り手段に加える構想です。中核は事業者がAPIで既存の決済に追加できるライトニング決済「aurora」で、同社はBTCで商品を買えるECサービス「UseBitcoin」で2年間インフラを運用してきたと説明しています。
国内1例目はANAP|2025年7月に584BTCを受け入れ、今回はグループが出す側に
- ANAPは2025年7月22日、584.9135BTC(約80億円)を現物出資で受領。上場企業で国内初
- 受け入れたBTCは子会社ALCが保有。そのALCが今回の出し手
- フルグル代表の川合林太郎氏は、ANAPホールディングスの社長を兼ねる
ビットコインの現物出資による第三者割当は、国内の上場企業ではANAPホールディングスが2025年6月9日に決議し、7月22日に払い込みを受けたのが最初です。投資会社キャピタルタイフーンから584.9135BTC(評価額7,999,939,200円)を受け入れ、ANAPは「日本初」と説明しました。そのビットコインは当日に子会社ALCへ移され、グループの保有は2025年9月末時点で1,111BTCに達しています。
| 項目 | 1例目:ANAPホールディングス | 2例目:日本ビットコイン産業 |
|---|---|---|
| 発表日 | 2025年6月9日(決議)、7月22日(払込) | 2026年10月28日(発表)、11月2日(給付予定) |
| 受け手 | ANAPホールディングス(東証スタンダード) | 日本ビットコイン産業(非上場) |
| 出し手 | キャピタルタイフーン | フルグル合同会社、ANAPライトニングキャピタル |
| 規模 | 584.9135BTC、7,999,939,200円 | 8億43,580円(BTC数量・割当額は非公表) |
| BTCの評価 | 1BTC=13,677,235円(評価レンジ上限から10%引き) | 非公表 |
| 用途 | グループのビットコイン保有(トレジャリー) | ライトニングの流動性、決済インフラ開発 |
今回の2社の出し手は、どちらもANAPと接点があります。ALCはANAPの子会社で、ALC社長の山本和弘氏はANAPの取締役副社長です。フルグル合同会社の代表社員である川合林太郎氏は、2025年7月からANAPホールディングスの代表取締役社長を務めています。川合氏は次回以降の資金調達でもリードインベスターとして支援を続けると表明しました。
ビットコイン現物出資の手順|検査役を使わずに通したANAPの型
- 会社法207条は500万円超の現物出資に検査役調査を求める。BTCは「市場価格のある有価証券」の例外に乗らない
- ANAPは公認会計士の価額証明(207条9項4号)で検査役を省略
- 評価は独立の会計事務所のレンジから10%引き、ウォレットの実在は別の会計士が確認
株式会社が金銭以外の財産で出資を受けるときは、会社法207条により原則として裁判所が選んだ検査役の調査が必要です。市場価格のある有価証券なら省略できますが、ビットコインは会社法上の有価証券ではないため、この例外は使えません。実務で使うのは、弁護士や公認会計士が価額の相当性を証明すれば調査を省略できる207条9項4号です。ANAPの開示は、この手順を上場企業として初めて具体的に示しました。
| 手順 | ANAPが行ったこと(2025年6月の開示) |
|---|---|
| ①価額の評価 | 独立した会計事務所(赤坂国際会計)が、決議日前日の終値と1か月・3か月・6か月平均から1BTC=1,352万〜1,520万円のレンジを算定 |
| ②ディスカウント | 決議日から払込日までの下落に備え、過去2年の45日間変動から平均下落率10%を適用。レンジ上限から10%引いた1,367万7,235円で確定 |
| ③価額証明 | 利害関係のない公認会計士が「現物出資財産の価格の証明書」を発行(207条9項4号)。検査役調査は不要に |
| ④実在性の確認 | 別の公認会計士がコールドウォレットの実物と残高を確認し、少額のテスト送金をブロックチェーン上で照合。払込完了まで移動しない誓約書を取得 |
| ⑤給付 | 払込期日に出し手のウォレットから会社のウォレットへ送金。ANAPは当日に子会社ALCへ移管 |
日本ビットコイン産業は非上場で適時開示の義務がなく、今回どの手順を使ったかは公表されていません。ただし総額8億円は検査役調査の対象となる規模で、ANAPと同じ会計士証明のルートを取るのが自然です。出し手の側では、現物出資は一般に時価で譲渡したものとして扱われ、含み益があれば課税が生じます。米国では税法351条で株式との交換を非課税にできるため「ビットコインで株を買う」取引が増えていますが、日本はこの点で条件が違います。
海外の前例|2025年以降、BTCで株を引き受ける取引は型になった
- Twenty One、BSTR、Striveなど米国では2025年にBTC現物での株式引受が相次いだ
- 日本企業が出し手になった例は、メタプラネットの2,100BTC出資(米Super League)
- 海外はトレジャリー目的が中心。事業資産として使う今回は性格が違う
海外では2025年以降、ビットコインを現物で拠出して株式を受け取る取引が珍しくなくなりました。多くはビットコインを貸借対照表に積む「トレジャリー企業」の立ち上げが目的です。日本企業が出し手になった例としては、メタプラネットが2026年8月に米Super Leagueへ2,100BTCを現物出資した取引があります。一覧にすると次のとおりです。
| 時期 | 取引 | 内容 |
|---|---|---|
| 2025年4月 | Twenty One Capital(米) | Tether・SoftBank・Bitfinexが1株10ドルでBTCを現物拠出して設立 |
| 2025年7月 | Bitcoin Standard Treasury(米) | 創業株主が25,000BTCを拠出。別に5,021BTCの全額現物PIPEを実施 |
| 2025年7月 | ANAPホールディングス(日本) | 584.9135BTCを受け入れ。国内上場企業で初 |
| 2025年 | Strive×Asset Entities(米) | 米税法351条を使い、適格投資家がBTCを株式と非課税で交換 |
| 2026年7〜8月 | Zhibao Technology(Nasdaq) | 2,380BTCを1BTC=65,000ドル固定で評価し1.547億ドルのPIPE |
| 2026年8月 | メタプラネット→Super League(米) | 2,100BTCと現金250万ドルで普通株4,485万株(1株3ドル)を取得 |
| 2026年10月 | 日本ビットコイン産業(日本) | 約8億円を全額BTCで調達。国内2例目、用途はライトニングの流動性 |


ICHIZEN Capitalの視点|「持つ資産」から「事業に入れる資本」へ
- 1例目は財務戦略、2例目は事業そのものがBTCを必要とする。現物で出す理由が自明
- 受けた側が1年あまりで出す側に回り、国内で循環が1周した
- ルーティング事業は出資したBTCが減る可能性もある。収益化は実績待ち
ANAPの1例目は、円で払い込んでもらって取引所でビットコインを買うより、現物で受けた方がコストと価格変動リスクを避けられるという財務上の判断でした。今回は違います。ライトニングのルーティングは、ビットコインをチャネルに置くこと自体が事業なので、円を経由する理由がそもそもありません。現物出資が最も合理的な事業に、現物出資で資本が入った形です。



BTCを売って円にし、円で設備を買う。この往復が要らない事業が国内に出てきました。
トレジャリー企業の次に来るのは、BTCをそのまま働かせる会社だと見ています。
一方で、見ておくべき点もあります。ルーティングで得られる手数料は小さく、チャネルの運用には資金の偏りや強制クローズのコストが伴うため、出資したビットコインが目減りする局面もありえます。日本ビットコイン産業は自社サービスで2年間運用してきたと説明していますが、規模や収益は公表されていません。ANAPグループにとっては、メタプラネットがSuper Leagueに2,100BTCを出資したのと同じく、保有BTCを「持つ」から「使う」へ振り向ける最初の案件になります。
決まっていることと、決まっていないこと
非上場企業の発表で一次情報はプレスリリースのみのため、確定している事実と非公表のものを分けておきます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 決まっている | 調達総額8億43,580円、全額ビットコインの現物出資、割当先はフルグル合同会社とALC、給付予定日11月2日、ALCとのルーティング事業の業務提携、資金使途(aurora開発・人材・ルーティング・R&D) |
| 非公表 | 2社それぞれの割当額、BTCの数量と評価単価、発行株式数と持分比率、検査役の省略に使った手順、チャネルに置くBTCの規模 |
| 今後変わりうる | 給付は契約条件の充足が前提。フルグルは次回以降もリード投資家として支援する意向を表明 |
よくある質問
日本ビットコイン産業とはどんな会社ですか?
2024年11月設立の非上場企業で、本社は東京都大田区、代表取締役は久世大亮氏です。事業者がAPIで導入できるライトニング決済「aurora」と、ビットコインで商品を買えるECサービス「UseBitcoin」を運営しています。資本金は資本剰余金等を含め4億9,976万円です。
ビットコインの現物出資とは何ですか?
株式の払込を現金ではなくビットコインで行うことです。出し手は保有するビットコインを会社のウォレットに送り、引き換えに株式を受け取ります。会社法上は金銭以外の財産による出資にあたり、価額の相当性について検査役の調査か、弁護士・公認会計士などの証明が必要です。
国内で前例はありますか?
あります。ANAPホールディングスが2025年7月22日に投資会社キャピタルタイフーンから584.9135BTC(約80億円)を現物出資で受け入れ、上場企業として国内初と説明しました。今回の日本ビットコイン産業は2例目で、ANAPの子会社ALCが今度は出す側に回っています。非上場では2018年にイーサリアムを現物出資して会社を設立した例も報じられています。
検査役の調査は必要ないのですか?
原則は必要ですが、会社法207条9項4号により、弁護士や公認会計士が価額の相当性を証明すれば省略できます。ANAPは独立した会計事務所の評価レンジから10%引いた単価を公認会計士が証明し、別の会計士がウォレットの実在を確認する手順を取りました。日本ビットコイン産業がどの手順を使ったかは公表されていません。
出資したビットコインは何に使われますか?
ライトニングネットワークのルーティング事業の流動性と、決済インフラ「aurora」の開発、人材採用、研究開発です。ALCのビットコインは日本ビットコイン産業が運用するチャネルに置かれ、海外の顧客から日本の事業者への支払いを中継する元手になります。
ライトニングのルーティングとは何ですか?
ライトニングネットワークでは、利用者同士が「チャネル」と呼ばれる経路を通じて支払います。自分のビットコインをチャネルに置き、他人の支払いを中継して手数料を得るのがルーティングです。中継できる金額は置いたビットコインの量で決まるため、流動性が多いほど大きな決済を通せます。
ANAPにとってはどういう意味がありますか?
2025年に現物出資で受け入れたビットコインを、保有するだけでなく事業に振り向ける最初の案件です。子会社ALCが日本ビットコイン産業の株主になるとともに、ルーティング事業の業務提携でビットコインを流動性として提供します。ALCの出資額は公表されていません。
出し手に税金はかかりますか?
一般に、現物出資は出資した財産を時価で譲渡したものとして扱われ、取得時より値上がりしていれば含み益に課税されます。米国では税法351条により株式との交換を非課税にできるため、ビットコインで株式を引き受ける取引が増えていますが、日本にはこの仕組みがありません。個別の税務は専門家に確認してください。
個人投資家に関係はありますか?
日本ビットコイン産業は非上場のため、株式を売買することはできません。関係するのはANAPホールディングス(3189)の株主で、子会社ALCが保有するビットコインの一部が出資と流動性提供に使われます。ANAPの株価や保有BTCの評価は、ビットコインの価格に左右されます。
まとめ
- 日本ビットコイン産業が約8億円を全額ビットコインの現物出資で調達。給付は11月2日
- 出し手はFulgur Venturesの日本拠点とANAP子会社ALC。割当額は非公表
- 国内2例目。1例目のANAP(2025年7月・584BTC)が今度は出す側に回った
- 用途はライトニングの流動性。BTCを円に替えずにそのまま事業資産にする
- 手順はANAPが示した会計士証明の型。ルーティングの収益化は実績待ち
今回の発表は、国内のビットコイン現物出資が1回限りの例外ではなくなったことを示しています。受け入れたANAPが1年あまりで出す側に回り、しかも出資先はビットコインをそのまま使う事業です。一方で日本ビットコイン産業は非上場で情報が限られ、ルーティング事業の規模や収益も公表されていません。11月2日の給付と、その後の決済インフラの実績を見ていきます。


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参考文献
・日本ビットコイン産業「『日本に、自由な決済を』日本ビットコイン産業、約8億円をビットコインで資金調達」(2026年10月28日)
・ANAPホールディングス「第三者割当による新株式及び第7回新株予約権の発行並びに主要株主及びその他の関係会社の異動に関するお知らせ」(2025年6月9日・PDF)
・ANAPホールディングス「当社グループによるビットコイン取得に関するお知らせ」(2025年7月22日・PDF)
・ANAPホールディングス「当社グループによるビットコイン購入に関するお知らせ」(2025年9月30日・PDF)
・CoinPost「日本ビットコイン産業、BTC現物出資で約8億円調達へ ANAP系と提携」(2026年10月28日)
・Cantor Equity Partners I「Bitcoin Standard Treasury Company to Go Public」(2025年7月・SEC Form 8-K)
・Zhibao Technology「Form 6-K」(2026年・SEC)
・Decrypt「Bitcoin for Shares? Strive Asset Management Unveils Listing Plans」(2025年)
※本記事は2026年10月時点の情報です。日本ビットコイン産業の調達内容は同社プレスリリースに基づき、割当額の内訳・BTC数量・評価単価は非公表です。ANAPの手続きは2025年6月9日の適時開示によります。税務の記述は一般的な説明で、個別の判断は専門家にご確認ください。本記事は特定の株式の売買を推奨するものではありません。
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