暗号資産のマネーロンダリング 手口と仕組みを解説|ビットコイン→テザー変換はなぜ追跡されるのか

「忙しい人向け」ニュース要約


  • 警視庁が特殊詐欺の資金洗浄グループを摘発。手口は被害金でビットコインを買い、テザー(USDT)に換えて隠す流れ
  • 使われやすいのは本人確認がゆるい海外・無登録の取引所。金融庁が海外取引所を監視・警告する理由の1つ
  • ただし取引は記録に残り、国内取引所への入金やチェーン分析・AIで、対面現金化(相対)でない限り追跡される
  • 例外はモネロ(Monero)やジーキャッシュ(Zcash)など匿名性に特化した通貨。悪用が指摘され取引所で上場廃止の動き

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水野 倫太郎

「暗号資産は足がつかない」というイメージは、半分は誤解です。多くの取引は台帳に記録が残り、国内取引所に入れた時点で本人確認から身元が割れます。だから今回も摘発されました。例外は匿名性に特化したごく一部の通貨だけで、普通のビットコインやテザーは追跡される前提で見るのが正解です。

水野 倫太郎
(株)ICHIZEN HOLDINGS

代表取締役

この記事の執筆者/監修者

慶應義塾大学経済学部卒。2017年米国留学時にブロックチェーンと出会い、Web3の業界に足を踏み入れる。2018年、仮想通貨メディアCoinOtakuに入社。2019年には同社のCMOに就任し、2020年に東証二部上場企業とM&Aを行い、様々なクリプト事業を展開。2022年に現在代表取締役社長を務めるICHIZEN HOLDINGSを立ち上げ様々なWeb3事業を手がける。複数のWeb3系事業に出資を行いながら有識者として活動。

監修 水野 倫太郎
株式会社ICHIZEN HOLDINGS 代表取締役

慶應義塾大学経済学部。2017年米国留学時にブロックチェーンと出会い、Web3の業界に足を踏み入れる。2018年には、日本有数の仮想通貨メディアCoinOtakuに入社。2019年には同社のCMOに就任し、2020年に東証二部上場企業とM&Aを行い、様々なクリプト事業を展開する。2022年に現在代表取締役社長を務めるICHIZEN HOLDINGSを立ち上げ様々なWeb3事業を手がける。複数のWeb3系事業に出資を行いながら有識者として活動。

目次

何があったのか|特殊詐欺の被害金をビットコイン→テザーで資金洗浄

この章のポイント

特殊詐欺の被害金を暗号資産に換えて隠した疑いで、警視庁が人材派遣会社の社長ら男女5人を逮捕しました(NHKは6人と報道)。手口はビットコインを買い、テザーに換えて隠す流れです。この記事では事件の概要は手短に、暗号資産を使った資金洗浄の仕組みと、なぜ追跡され摘発されるのかを詳しく解説します。

警視庁は2026年10月7日、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで、大阪府泉佐野市の人材派遣会社の社長の男(36)ら男女5人を逮捕しました(NHKは6人と報道)。捜査関係者によると、社長の男が資金洗浄グループの指示役、別の男(45)が特殊詐欺グループとの仲介役だったとみられています。

5人は2024年2〜3月、特殊詐欺グループが管理する口座から送金された被害金の約9,100万円を暗号資産に変換して資金洗浄し、うち約1%を報酬として受け取ったとみられています。具体的な立件対象は、2024年2月に会社名義の口座へ入った被害金440万円でビットコインを購入し、別の暗号資産であるテザーに換えて隠した疑いです。警視庁は10月9日にも、同社を同法違反容疑で東京地検に書類送検する方針です。

注目したいのは、だまし取った資金を洗浄する作業を、手数料(約1%)を取って請け負う「代行」のような役割分担ができていた点です。ここから先は、そもそも資金洗浄とは何か、なぜ暗号資産が使われ、そしてなぜ最後は足がつくのかを順番に見ていきます。

そもそもマネーロンダリング(資金洗浄)とは

この章のポイント

マネーロンダリングは、犯罪で得た「汚れたお金」の出所を分からなくする行為です。一般に「預け入れ→重ね合わせ→統合」の3段階で説明され、今回のビットコイン→テザーの変換は、足取りを複雑にする2段階目(重ね合わせ)にあたります。

マネーロンダリング(資金洗浄)とは、詐欺や麻薬取引などの犯罪で得たお金を、正当な資金に見せかけて出所を分からなくする行為です。一般には次の3段階で説明されます。

  1. プレイスメント(預け入れ):犯罪で得た現金を金融システムに入れる段階。口座への入金や、暗号資産の購入などが該当します。
  2. レイヤリング(重ね合わせ):何度も送金・交換・分散して、お金の流れを複雑にし出所を隠す段階。別の通貨や口座を経由させます。
  3. インテグレーション(統合):きれいに見せかけた資金を、正当な取引や投資に紛れ込ませて回収する段階です。

今回のケースでは、被害金でビットコインを買う行為がプレイスメント、それをテザーに換えて分散・隠匿する行為がレイヤリングにあたります。暗号資産は、この重ね合わせの段階を手早く行う道具として悪用されました。

なぜ暗号資産が使われるのか|今回の「ビットコイン→テザー」の手口

この章のポイント

現金を一度ビットコインに換え、価格変動を避けるためドル連動のテザーに退避し、複数のアドレスや取引所に分散して足取りを消す、という流れです。国境を越えて素早く動かせる点も悪用の理由です。

暗号資産が資金洗浄に使われる理由は、主に3つです。第1に、銀行を介さずに個人間で素早く送れること。第2に、国境を越えて短時間で動かせること。第3に、別の通貨やアドレスに次々と移し替えることで、お金の流れを複雑にできることです。今回の手口は、次のような流れだったとみられます。

1. 詐欺の被害金
会社名義の銀行口座に入金
→
2. ビットコイン購入
現金を暗号資産に変換
→
3. テザーに変換
価格変動を避けて退避
→
4. 分散・隠匿
複数アドレスへ移し足取りを消す

ビットコインは価格が大きく動くため、長く持つと金額が変わってしまいます。そこで、米ドルに連動して価格が安定した「ステーブルコイン」であるテザー(USDT)に換えることで、金額を保ったまま動かしやすくしていました。これが「ビットコイン→テザー」という2段構えの狙いです。

それでも「足がつく」理由|取引は残り、国内取引所への入金で追跡される

この章のポイント

多くの暗号資産は取引が公開台帳に半永久的に残ります。出口となる国内取引所では本人確認が義務付けられ、入金・換金の時点で名義が判明します。チェーン分析とAIの発達で、対面現金化などチェーン外の手法でない限り追跡は年々容易になっています。

暗号資産は「匿名で足がつかない」と思われがちですが、実際は逆です。多くの通貨では、むしろ追跡されやすい仕組みが揃っています。

  • 取引が公開台帳に残る:ビットコインやイーサリアム、テザーなどの取引は、誰でも閲覧できるブロックチェーンに記録されます。記録は半永久的に残り、後から消すことはできません。
  • 出口の取引所で名義が割れる:暗号資産を日本円などの現金に戻すには、多くの場合、取引所を通します。国内の登録業者は犯罪収益移転防止法で本人確認(KYC)が義務付けられており、入金・換金の時点で誰の取引かが判明します。今回の摘発でも、会社名義の口座と取引が突破口になったとみられます。
  • チェーン分析とAIの進化:ブロックチェーン上の資金の流れを解析する専門企業やツールがあり、アドレスのまとまり(クラスター)を推定して資金を追う精度が上がっています。AIの発達で、この追跡はさらに速く・正確になっています。対面で現金に換える「相対」のような、チェーン外でやり取りする手法でない限り、流れは追えるのが基本です。
  • ステーブルコインは凍結もされる:テザーのような中央集権型のステーブルコインは、発行体が不正に関わったアドレスを凍結できます。隠すどころか、資金を止められてしまうこともあります。

つまり、普通の暗号資産を使った資金洗浄は「いつか足がつく」前提の綱渡りです。送金記録というデジタルの証拠が残り続けるため、時間が経ってからでも摘発につながります。

資金洗浄に使われやすいのは海外取引所|金融庁が監視する理由

この章のポイント

本人確認が厳格な国内の登録取引所は避けられ、本人確認がゆるい・日本で登録していない海外の取引所が使われやすいのが実情です。これが、金融庁が無登録の海外取引所を監視し、警告を続ける理由の1つです。

資金洗浄に実際に使われやすいのは、どの取引所なのでしょうか。犯罪側が嫌うのは、本人確認(KYC)や取引監視が厳しい国内の登録取引所です。国内の登録業者は犯罪収益移転防止法で本人確認や疑わしい取引の届出が義務づけられているため、資金洗浄にはむしろ向きません。そこで使われやすいのが、本人確認がゆるい、あるいは日本で登録していない海外の取引所です。

金融庁が無登録の海外暗号資産交換業者を監視し、警告リストの公表を続けている背景には、こうした資金洗浄や利用者保護の問題があります。ただし、最終的に日本円へ換えようとすれば、どこかで規制下の出口を通ることが多く、取引所どうしの連携やチェーン分析によって、海外を経由しても足がつくことは珍しくありません。投資家にとっても、無登録・本人確認のゆるい取引所は避け、本人確認がしっかりした登録業者を選ぶことが基本の防御になります。

例外|匿名性に特化した通貨(モネロ・ジーキャッシュ)のリスク

この章のポイント

モネロ(Monero)やジーキャッシュ(Zcash)は、送受信者や金額を隠す技術を備えた「匿名通貨」です。追跡が難しいため犯罪への悪用が指摘され、国内外の取引所で上場廃止や取扱い制限が進んでいます。一般に使われるビットコインやテザーは、これらとは違い追跡される前提です。

一方で、追跡が難しい通貨も存在します。代表例が、匿名性に特化して設計された「匿名通貨(プライバシーコイン)」です。

  • モネロ(Monero/XMR):送信者・受信者・金額を標準で隠す技術(リング署名やステルスアドレスなど)を使い、既定で取引内容が分かりません。追跡が困難なことで知られます。
  • ジーキャッシュ(Zcash/ZEC):ゼロ知識証明という技術で、取引を秘匿するかどうかを選べます。秘匿機能を使うと、送受信者や金額を隠せます。

これらの匿名通貨は、資金洗浄などへの悪用が各国で懸念され、国内外の取引所で上場廃止や取扱い制限の動きが広がっています。裏を返せば、一般の投資家が日常的に使うビットコイン・イーサリアム・テザーなどは、匿名通貨とは異なり「記録が残り追跡される」通貨だということです。

巻き込まれないために知っておきたいこと

この章のポイント

自分の口座やウォレットを他人に貸す・売る、高報酬をうたう送金や受け取りの「闇バイト」に関わると、それ自体が犯罪になり得ます。困ったときは警察相談専用電話(#9110)や消費者ホットライン(188)に相談してください。

資金洗浄は、特殊詐欺グループだけの話ではありません。知らないうちに加担してしまう危険もあります。口座やウォレットを他人に貸したり売ったりする行為、「送金するだけ」「受け取るだけ」で高い報酬をうたう募集(いわゆる闇バイト)は、資金洗浄の一部を担わされている可能性が高く、口座の売買・譲渡自体が犯罪収益移転防止法に触れます。

投資家として暗号資産を扱う際は、本人確認がしっかりした登録業者を使うこと、うまい話に乗らないことが基本の防御になります。トラブルや不審な勧誘で困ったときは、警察相談専用電話(#9110)や消費者ホットライン(188)に相談してください。

よくある質問(FAQ)

暗号資産は匿名で足がつかないのですか?

いいえ。ビットコインやイーサリアム、テザーなど多くの暗号資産は、取引が公開台帳(ブロックチェーン)に記録され、追跡が可能です。匿名性が高いのはモネロなど一部の通貨に限られます。

なぜビットコインではなくテザーに換えるのですか?

ビットコインは価格変動が大きいため、金額を保ったまま動かしにくいからです。米ドルに連動したテザーに換えると価格が安定し、送金や分散がしやすくなります。ただしテザーは発行体がアドレスを凍結できます。

どこで足がつくのですか?

多くは暗号資産を現金に戻す出口、つまり取引所への入金・換金の時点です。国内の登録業者は本人確認が義務付けられており、誰の取引かが判明します。今回の摘発でも、会社名義の口座と取引が突破口になったとみられます。

ブロックチェーンの記録は消せますか?

消せません。一度記録された取引は半永久的に残ります。そのため、時間が経ってからでも資金の流れをたどって摘発につながります。

モネロやジーキャッシュは追跡できないのですか?

これらは匿名性に特化して設計され、送受信者や金額を隠せるため追跡が困難です。悪用が懸念され、国内外の取引所で上場廃止や取扱い制限が進んでいます。

自分の口座を貸すだけでも罪になりますか?

なり得ます。口座やウォレットの売買・譲渡は犯罪収益移転防止法に触れ、資金洗浄の幇助に問われる可能性もあります。高報酬をうたう送金・受け取りの募集には関わらないでください。

投資家として注意すべきことは何ですか?

本人確認がしっかりした登録業者を使い、うまい話に乗らないことが基本です。暗号資産の取引は記録が残るため、正しく使っていれば身を守る情報にもなります。

今回の事件の規模はどのくらいですか?

グループは2024年2〜3月に被害金の約9,100万円を暗号資産に変換して洗浄し、約1%を報酬として受け取ったとみられています。具体的な立件対象は、そのうち440万円分です。

この記事のまとめ

この記事のまとめ
  • 警視庁が特殊詐欺の資金洗浄グループを摘発。手口は被害金でビットコインを買い、テザーに換えて隠す流れ。
  • 資金洗浄は「預け入れ→重ね合わせ→統合」の3段階。ビットコイン→テザーの変換は、足取りを複雑にする重ね合わせにあたる。
  • 多くの暗号資産は取引が公開台帳に残り、国内取引所への入金・換金(本人確認)で足がつく。チェーン分析とAIの発達で追跡は年々容易に。
  • 資金洗浄に使われやすいのは本人確認がゆるい海外・無登録の取引所。金融庁が海外取引所を監視・警告する理由の1つ。
  • 例外はモネロ・ジーキャッシュなどの匿名通貨。悪用が懸念され取引所で上場廃止の動き。一般のビットコインやテザーは追跡される前提。
  • 口座やウォレットの貸し借り・売買、闇バイトは犯罪になり得る。困ったら#9110・188へ。
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水野倫太郎 水野倫太郎|株式会社ICHIZEN HOLDINGS 共同代表@mizuno_ichizen

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参考文献

  • NHK「特殊詐欺の金を暗号資産に交換し資金洗浄か 6人逮捕 警視庁」(2026年10月8日)
  • 読売新聞「特殊詐欺被害金を暗号資産に変換し資金洗浄疑い、人材派遣会社社長ら男女5人を逮捕…警視庁」(2026年10月8日)
  • 警察庁・金融庁「犯罪収益移転防止法」関連資料、FATF(金融活動作業部会)勧告(トラベルルール)

※本記事は特定の犯罪手法を助長する目的ではなく、読者が被害や加担を避けるための注意喚起・解説を目的としています。事件の詳細は捜査中であり、記載は報道時点の情報に基づきます。本記事は情報提供を目的としたもので、投資助言ではありません。

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