第13回 デュレーションは何の近似なのか ― 金利が動いたときの誤差の正体

第13回 デュレーションは何の近似なのか ― 金利が動いたときの誤差の正体

位置: 第2部 第13回 / 前提: 第9回、第10回、第12回 / 数学編: M2(テイラー展開) / この回でできるようになること: 金利が動いたときの債券価格の変化をデュレーションで見積もり、その誤差の大きさを評価できる

目次

0. 物語 ― 大きな金利変動で一次近似が外れる

「先輩、金利が1%上がったら、この債券はどれくらい下がりますか」。新人が画面を指しています。額面100、クーポン5%、残存10年の債券です。

「修正デュレーションが7.72だから、だいたい7.72%下がる」。先輩は即答しました。厳密な値下がり幅は7.36%。差は0.36%で、まあ許容範囲です。

翌週、中央銀行が予想外の利上げを発表し、金利が一気に2%跳ね上がりました。新人は先週の要領で「15.44%の値下がり」と見積もります。ところが実際は14.05%の下落でした。誤差は1.40%。額面1億円なら140万円のずれです。

「1%のときは0.36%しかずれなかったのに、2%で1.40%もずれるんですか」。新人は首をかしげます。誤差は4倍近くに膨らんでいます。

先輩は価格と利回りのグラフを描いて見せました。「価格は利回りに対して直線ではなく曲線を描く。デュレーションは接線の傾きだから、離れるほど曲線から外れる。しかも接線は常に曲線の下側を通るので、値下がりをいつも大きく見積もってしまう」。

誤差が金利変動の2乗に比例すること。そして見積もりが必ず実際より悲観的になること。この2つは、価格を利回りで微分すれば証明できます。

1. 動機 ― 金利が1%動いたら価格はいくら動くのか

この回を読み終えると、金利が動いたときの債券価格の変化をデュレーションで見積もり、その誤差の大きさを評価できます。

債券を持っている人が一番気にするのは、金利が動いたときに自分の債券の値段がどれだけ動くか、です。第10回で最終利回り を導入し、第12回でイールドカーブを見ました。利回りが上がれば価格は下がる。これは、将来の支払いを高い利回りで割り引くほど現在価値が小さくなる、という割引の仕組みから出てきます。問題は「どれだけ」下がるかです。

答えを一言で言えば、価格変化率は で近似できます。 は修正デュレーションと呼ばれる量で、債券の価格が金利に対してどれほど敏感かを測る指標です。ただし、これはあくまで一次近似です。金利の変動が大きくなると誤差が無視できなくなります。その誤差の正体は何か。今回はここまで明らかにします。

道具は微分(テイラー展開)だけです。数学編 M2 を読んでいれば準備は整っています。

この記事で証明すること

  • THM-DUR-1 債券価格の対数微分の符号を反転したものが修正デュレーション であり、 が成り立ちます。
  • THM-DUR-2 価格変化率は で近似でき、残差の主要項は です。
  • THM-DUR-3 キャッシュフローがすべて非負の債券ではコンベキシティ であり、一次近似は価格を常に過小評価します。

2. 設定と仮定 ― 確定キャッシュフローとフラットなイールドカーブ

今回の議論の前提を全て書き出します。

  • キャッシュフロー: 時点 に支払われるキャッシュフロー は正で確定しています。支払時点も確定しています。
  • イールドカーブ: フラット(水平)です。動くときは全ての年限が同じ幅だけ動く平行移動のみを考えます。
  • 最終利回り: は年1回複利で、 とします。
  • 信用リスク・途中償還・オプション性: なし。途中償還条項が付いた債券では以下の議論がそのまま成り立たないことだけ注意してください。
  • 価格: 経過利子込み(ダーティプライス)で扱います。
  • 記法: デュレーションには必ず添字を付けます。(マコーレー)、(修正)です。裸の は割引係数 に予約済みなので使いません。

債券価格は最終利回り の関数として

と書けます。これが出発点です。

3. 主張 ― 修正デュレーションは価格の対数微分である

以下の3つの定理を示します。

定理 THM-DUR-1(修正デュレーションと価格感応度) 確定キャッシュフローの債券価格 を最終利回り の関数と見るとき、

とおくと、マコーレー・デュレーション

との間に が成り立つ。

定理 THM-DUR-2(一次近似とその誤差項) 利回りが から に変化したとき、価格変化率は

で近似でき、テイラー展開の二次の項まで取ると

が成り立つ。ここで

はコンベキシティである。

定理 THM-DUR-3(コンベキシティの符号) キャッシュフローがすべて非負(, )で少なくとも1つは正のとき、 である。したがって一次近似 は、 の符号によらず、価格変化率を常に過小評価する(代数的に小さく見積もる)。

証明を読む(読まなくても記事は完結します)

4. 証明 ― 価格を利回りで微分する

この節は読まなくても記事は完結します。

この証明を追いたい人は、数学編 第2回「テイラー展開」へ。

THM-DUR-1 の証明

を で微分します。(2.1) の各項 を で微分するために、べき関数の微分公式 を使います。

最後の等号では、各項から共通因子 をくくり出しました。指数が から と に分離されています。

の定義に代入します。 を掛けて

一方、マコーレー・デュレーションの定義は

ですから、(4.2) と見比べると

が得られます。

の意味を確認しておきます。各キャッシュフローの現在価値 が債券価格 に占める割合を重みとして、支払時点 の加重平均を取ったものです。つまり「現在価値で重み付けした平均回収年数」です。 ∎

THM-DUR-2 の証明

を のまわりでテイラー展開します。数学編 M2 の結果を使います。

両辺から を引いて で割ると、価格変化率が得られます。

第1項は THM-DUR-1 の結果から です。第2項の係数がコンベキシティ になることを示します。

の二階微分を計算します。(4.1) をもう一度 で微分するために、各項 に対してべき関数の微分公式を再び適用します。

微分の各ステップを確認します。 です。符号が2回反転して正に戻っています。

の定義に代入すると

これを (4.5) に代入して

が成り立ちます。一次の項だけ残せば です。 ∎

THM-DUR-3 の証明

(4.7) をもう一度見ます。

仮定より で少なくとも1つは正です。 なので です。 は から従います。したがって和の各項は非負で、少なくとも1つは正です。

分母の も、全ての かつ少なくとも1つが正であることから、(2.1) より です。

正の数を正の数で割るので、 が成り立ちます。

一次近似の誤差への影響を見ます。(4.8) の二次の項 は、 かつ ( のとき)なので常に正です。つまり

です。 が十分小さいとき三次以上の項は二次の項に比べて無視できます。ただし「常に」と言うには、 が大きい場合も押さえる必要があります。上の の議論は のどの点でも同じように成り立つので、 は 全体で成り立ちます。そこでテイラーの定理を剰余項つき(ラグランジュ形)で使うと、 と の間のある について

となり、最後の項は (かつ )なら正です。両辺から を引いて正の で割ると、 の大きさによらず が得られます。したがって、厳密な価格変化率は一次近似 より常に大きくなります。金利が上がっても下がっても、一次近似は実際の価格より低い値を返します。これが「過小評価」の意味です。

直感的に言えば、 は下に凸な関数であり、接線(一次近似)は常に曲線の下側にあるということです。 ∎

5. 反例 ― 金利が大きく動くと近似が外れる

CEX-DUR-1: 一次近似の限界

THM-DUR-2 の一次近似 は が小さいときにしか使えません。以下、額面 100、クーポン 5%、残存 10 年、 の債券(、)で を大きくしていきます。

厳密な 一次近似 誤差

誤差は に比例して拡大します。 を 10 倍にすると誤差はおよそ 100 倍になるはずです。実際、 の誤差と の誤差の比は で、理論値 とほぼ一致します。これはテイラー展開の残差が のオーダーであることの直接的な確認です。

コンベキシティまで入れた二次近似を見ると、精度が大きく改善します。

厳密な 二次近似 誤差

で誤差が から に縮小しました。ただし では二次近似でも 程度の誤差が残ります。二次の項(コンベキシティ)の本格的な扱いは第14回に譲ります。

一次近似の誤差は常に正、つまり一次近似が実際の価格変化率より代数的に小さいことも確認できます。これは THM-DUR-3 の帰結です。

CEX-DUR-2: イールドカーブが平行移動しないとき

ここまでの議論はイールドカーブが平行移動するという仮定に依存しています。現実には短期金利と長期金利が同じ幅で動くとは限りません。ここでは、短期が上昇し長期が下落する「ツイスト」を与えて、 が同じ2本の債券でも全く違う動きをすることを見ます。

2本の債券を用意します。いずれも で評価します。

  • ブレット: 4 年ゼロクーポン債。 です。
  • バーベル: 1 年ゼロクーポン債と 10 年ゼロクーポン債を、現在価値で に配分した組み合わせ。加重平均の は で、ブレットと同じです。

初期価格はいずれも 82.2702 に揃えてあります。平行移動であれば が同じなので、ほぼ同じ幅で動くはずです。

ツイストを次のように定義します。1 年の利回りが 、10 年が 、中間の年限は線形に内挿します。4 年の変化は です。

価格変化率
ブレット
バーベル

ブレットは 4 年の金利が 上昇したため価格が下がります。バーベルは、1 年の 上昇で短期部分が損をしますが、10 年の 低下で長期部分が得をし、長期部分の感応度が高いため全体では価格が上昇します。符号が逆転しています。

が同じでも、キャッシュフローの散らばり方が違えばツイストへの反応は全く異なります。デュレーションだけで金利リスクを管理できるのは、あくまで平行移動の仮定が成り立つ範囲に限られます。

CEX-DUR-3: 負のキャッシュフローでコンベキシティが負になる

THM-DUR-3 は「キャッシュフローがすべて非負」という仮定に依存しています。途中に支払い義務(負のキャッシュフロー)がある場合、この仮定が崩れます。

次のキャッシュフローを考えます。

時点
キャッシュフロー

での価格は です。コンベキシティを定義式 (4.7) から直接計算すると

と負になります。 の負のキャッシュフロー が、 という大きな重みを持つため、正のキャッシュフローの寄与を打ち消しています。

のとき、一次近似の二次補正 が負になるため、一次近似は価格を過大評価します。 のとき、厳密な価格変化率は ですが、一次近似は を返します。THM-DUR-3 の帰結が逆転しているのが見て取れます。

6. 数値例 ― クーポン5%・残存10年で誤差を測る

額面 100、クーポン 5%、残存 10 年、 の債券を基準に、主要な数値をまとめます。

基本指標

指標 値
価格 100.0000(パー)
8.1078 年
7.7217
74.998

がクーポンレートに等しいのでパー(額面)で取引されます。 年は、クーポンが途中で入ってくるために満期 10 年より短くなっています。

ゼロクーポン債の

ゼロクーポン債ではキャッシュフローが満期の 1 回だけなので、加重平均は満期そのものになります。

残存年数
3 年 3.0000 年
5 年 5.0000 年
10 年 10.0000 年

これは定義から直ちに従います。キャッシュフローが1つなら なので、 です。

クーポンと の関係

を固定し、クーポンレートを変えたときの を示します。

クーポン
0%(ゼロクーポン) 10.0000 年
3% 8.6573 年
5% 8.1078 年
8% 7.5419 年
10% 7.2698 年

クーポンが大きいほど、早い時点のキャッシュフローの現在価値が大きくなるため、加重平均の回収年数()は短くなります。

これらの数値はすべて compute.py による厳密計算(fractions.Fraction)に基づいています。

7. 次回へ ― 無視した二次の項を正面から扱う

今回は価格の に対するテイラー展開を二次の項まで調べました。一次近似 の誤差が に比例すること、その係数がコンベキシティ であることを見ました。

次回(第14回)では、このコンベキシティを正面から扱います。同じデュレーションの債券でもコンベキシティが異なると金利変動への反応が変わること、そしてコンベキシティが債券の選択にどう影響するかを定量的に議論します。

次のマイルストーンまであと 3 本です。

よくある質問

デュレーションは年数なのですか

マコーレー・デュレーション のほうは、現在価値で加重平均した回収年数で、単位は年です。修正デュレーション は金利 1% あたりの価格変化率を表す量なので、意味が違います。

コンベキシティは大きいほうが得ですか

金利がどちらに動いても価格が有利にずれるので、同じデュレーションなら有利です。ただし、その分だけ利回りが低く設定されているのが普通です。

近似はどのくらいの金利変動まで使えますか

目安として 0.5% 程度までです。それを超えるとコンベキシティを足さないと誤差が目に見えてきます。今回の数値例でも、1% の変動で一次近似の誤差が 0.36% に達することを確認しました。

参考文献

  • Macaulay F. R.、Some Theoretical Problems Suggested by the Movements of Interest Rates Bond Yields and Stock Prices in the United States since 1856、National Bureau of Economic Research、1938年
  • Fabozzi F. J.、Bond Markets Analysis and Strategies、第9版、Pearson、2015年

数値例は compute.py により有理数演算(fractions.Fraction)で検算済み。本文中の小数は4桁で丸めている。

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