第14回 コンベキシティ ― 二次の項はどこで効いてくるのか

第14回 コンベキシティ ― 二次の項はどこで効いてくるのか

位置: 第2部 第14回 / 前提: 第9回、第13回 / 数学編: M2 / この回でできるようになること: 金利が大きく動いたときの債券価格の変化を二次の項まで見積もり、同じデュレーションの債券の違いを説明できる

目次

0. 物語 ― コンベキシティが大きいほうが常に得とは限らない

手元に100万円があり、二つの債券ファンドから一つを選ぶ場面を想像してください。どちらも満期までの平均回収年数は4年で揃えてあります。金利が動いたときの価格の下がり方も、一次の感応度ではまったく同じです。

違いは中身の構成です。ファンドAは4年満期の債券を1本だけ持っています。ファンドBは1年満期と10年満期の債券を混ぜています。Bのほうが「曲がり」が大きく、金利がどちらに動いても一次の近似からのずれが価格を押し上げる力が強い。この曲がりの大きさがコンベキシティです。

金利が一律に1パーセント上がっても下がっても、Bが勝ちます。上昇と下落を合わせた価格変化率は、Bが0.35パーセント、Aが0.18パーセントです。同じ感応度のはずなのに差が出る。その差は二次の項から来ています。

ここまで聞けば「常にBを選べばいい」と思うかもしれません。しかし金利は一律には動きません。短い金利が1パーセント下がり、長い金利が0.25パーセント上がるという「ねじれ」が起きたとしましょう。Aは中間の年限にいるので金利低下の恩恵を受け、価格は約2.3パーセント上がります。一方Bは、短い部分では得をしますが長い部分が金利上昇で大きく値下がりし、全体では約0.1パーセントの損になります。

曲がりが大きいほうが常に得をするわけではありません。金利の動き方しだいで優位はあっさり消えます。二次の項がどこから来て、いつ効いていつ裏切るのか。この回ではそれを定理として示します。

1. 動機 ― 一次近似が外れる分はどこへ行ったのか

この回を読み終えると、金利が大きく動いたときの債券価格の変化を二次の項まで見積もり、同じデュレーションの債券の違いを説明できます。

第13回で、債券の価格変化率を修正デュレーション で近似しました。一次近似です。 のように金利変動が小さければ、この近似は十分に正確でした。

しかし になると一次近似の誤差は無視できなくなり、 ではさらに開きます。外れた分はどこへ行ったのでしょうか。答えはテイラー展開の二次の項です。この二次の項を とセットで使うのがコンベキシティです。

コンベキシティは単なる近似精度の改善ではありません。「キャッシュフローが非負の債券は、金利がどちらに動いても二次の項が価格を押し上げる」という構造的な性質があり、デュレーションが同じ債券どうしでもコンベキシティの大きさで優劣がつきます。

この記事で証明すること

  • THM-CX-1 価格変化率の二次近似は であり、残差は の3次の量です。
  • THM-CX-2 キャッシュフローがすべて非負のとき であり、金利がどちらに動いても二次の項は価格を押し上げます。
  • THM-CX-3 が等しい2つの債券では、平行移動に対して の大きいほうが価格変化において有利になります。

2. 設定と仮定 ― テイラー展開の2次項

以下の仮定を全て置きます。

  • キャッシュフローは確定していて、支払時点も確定している
  • イールドカーブは平坦で、動くときは平行移動のみ
  • 最終利回りは年1回複利
  • 信用リスク、途中償還、オプション性は無い
  • デュレーションには必ず添字を付ける。コンベキシティは と書く

時点 にキャッシュフロー を支払う債券の価格は

です。第13回で、 を で微分したものから修正デュレーションを定義しました。

今回はもう一段先の、二階微分を使います。 を で2回微分します。

コンベキシティを次のように定義します。

が の一次の感応度を規格化したものであるのと同様に、 は二次の感応度を規格化したものです。

この2つの量を使えば、テイラー展開によって価格変化率を近似できます。仮定はここまでです。

3. 主張 ― 二次の項は常に価格を押し上げる

3つの定理を述べます。

定理 THM-CX-1(二次近似の誤差) は の有理関数であるから任意回微分可能である。テイラーの定理により、 を利回りの変化とすると

が成り立つ。ここで は のとき と同程度以下で消える量である。

定理 THM-CX-2(凸性の帰結) すべてのキャッシュフローが非負(, )であり、少なくとも1つの であるとき、 である。したがって二次の項 は の符号によらず非負であり、金利がどちらに動いても価格を押し上げる方向に働く。

定理 THM-CX-3(同じデュレーションでの優劣) が等しい2つの債券 A, B を考える。 であるとき、利回りが だけ平行移動すると、二次近似の範囲で

が成り立つ。すなわち の符号によらず、 の大きい債券のほうが有利である。

THM-CX-3 は「デュレーションで一次の項が相殺された後、勝負を決めるのは二次の項」ということを言っています。

証明を読む(読まなくても記事は完結します)

4. 証明 ― 価格を利回りで2回微分する

この節は読まなくても記事は完結します。

この証明を追いたい人は、数学編 第2回「テイラー展開」へ。

THM-CX-1 の証明

は の有限和なので、 で任意回微分可能です。テイラーの定理を のまわりで について適用します。

ここで は三次以降の剰余項で、テイラーの定理により です。(正のキャッシュフローが少なくとも1つあり、 のため)なので、両辺を で割ります。価格変化率を左辺に移すためです。

定義 (2.2) と (2.4) を代入します。 であり、 です。

これが THM-CX-1 の主張です。 ∎

THM-CX-2 の証明

定義 (2.3) と (2.4) から出発します。

各因子を調べます。

  • : 仮定です。
  • : 時点は非負です。 であれば です。 のキャッシュフローは和に寄与しませんが、 を0にするだけで負にはしません。
  • : より なので、任意の実数乗に対して正です。
  • : キャッシュフローが非負で少なくとも1つは正なので、 です。

したがって和の各項は非負です。少なくとも1つの で かつ であれば、その項は正です。通常の債券では少なくともクーポンか元本の返済が将来の時点にあるので、この条件は満たされます。

二次の項 について、 かつ ですから、この項は の符号によらず非負です。 のとき厳密に正であり、常に価格を押し上げる方向に働きます。 ∎

THM-CX-3 の証明

が等しい2つの債券 A, B に THM-CX-1 を適用します。

一次の項 は仮定より等しいので、辺々引くと消えます。差を取ることで一次の項を相殺し、二次の項の優劣だけを取り出すのがこの証明の核心です。

より であり、( のとき)ですから、三次以降の項が十分小さい範囲では右辺は正です。

すなわち、金利が上昇しても下落しても、 が大きい債券 A のほうが価格変化率が有利になります。 ∎

注意すべきは「平行移動に対して」という限定です。イールドカーブが平行に動かないとき(ツイスト)にはこの結論は成り立ちません。次節で反例を見ます。

5. 反例 ― ツイストではコンベキシティの優位が消える

CEX-CX-1: ツイストでバーベルが負ける

THM-CX-3 は平行移動を仮定しています。「 が大きいほうが常に得」という理解は誤りです。

第13回と同じ構成でブレットとバーベルを用意します。いずれも で評価します。

  • ブレット: 4 年ゼロクーポン債。、、 です。
  • バーベル: 1 年ゼロクーポン債と 10 年ゼロクーポン債を、現在価値で に配分した組み合わせ。加重平均の で一致します。 です。

バーベルの はブレットの約 1.9 倍です。THM-CX-3 より、平行移動ならバーベルが有利です。

しかし、次のスティープ化ツイストを考えます。1 年の利回りが 、10 年が 、中間の年限は線形に内挿します。4 年の変化は です。

価格変化率
ブレット
バーベル

ブレットは 4 年の金利が 下がったため価格が上昇します。バーベルは、短期部分こそ金利低下で得をしますが、長期部分が金利上昇で損をし、長期部分の感応度が高いため全体では価格が下落します。 が大きいバーベルが負けています。

平行移動の仮定を外すと、 の優位は保証されません。

CEX-CX-2: 負のキャッシュフローでコンベキシティが負になる

THM-CX-2 は「」を仮定しています。途中に負のキャッシュフローを挟むとこの仮定が崩れます。

次のキャッシュフローを考えます。

時点
キャッシュフロー

での価格は です。定義 (2.3) から を直接計算すると、各時点の寄与は次のようになります。

時点 キャッシュフロー への寄与
合計

の負のキャッシュフローが、 という二次の重みを伴って大きな負の寄与を生み、正の寄与を打ち消しています。合計が負なので

です。金利がどちらに動いても二次の項が価格を押し下げる方向に働きます。

CEX-CX-3: 二次近似にも限界がある

THM-CX-1 の残差は です。 が小さければ無視できますが、大きくなれば三次以降の項が見えてきます。

メインの債券(額面 100、クーポン 5%、残存 10 年、)で、 まで広げてみます。二次近似の価格は ですが、厳密価格は です。誤差は で、元の価格の約 に相当します。三次の項の寄与だけでも と見積もられます。

以内であれば二次近似は十分実用的ですが、数パーセント規模の変動では二次で打ち切る近似にも限界があります。

6. 数値例 ― dy を広げながら3つの価格を並べる

メインの債券を確認します。

  • 額面 100、クーポン 5%、残存 10 年、(パー債)
  • 、、

を から まで広げながら、厳密価格・一次近似・二次近似を並べます。

厳密価格 一次近似 二次近似 一次の誤差 二次の誤差

一次近似の誤差は常に正です。これは THM-CX-2 の帰結で、 により実際の価格が一次近似より常に上に来ることを意味します。二次近似は で誤差 と非常に正確ですが、 では まで開きます。

次に、ブレットとバーベルの比較です。第13回と同じ構成(ブレット: 4 年ゼロ、バーベル: 1 年ゼロ + 10 年ゼロを現在価値 )で、、 を揃えてあります。

ブレット
バーベル

の平行移動に対する価格変化率は次の通りです。

合計
ブレット
バーベル

金利が上昇しても下落しても、バーベルのほうが価格変化率が有利です。上下の合計を見ると、バーベルの はブレットの を上回ります。これは THM-CX-3 の数値的な確認です。 の差が、金利変動の方向によらず価格に有利に働いています。

最後に、負のキャッシュフローを挟んだ債券( に 、 に 、 に )の は で、確かに負です。

7. 次回へ ― 2つの通貨の金利差

今回は、デュレーションの一次近似を二次の項で補正しました。 が正であることが、金利がどちらに動いても価格が押し上げられるという構造的な帰結を生んでいました。

次回(第15回)は視点を変えて、2つの通貨の金利差が為替の先渡価格を決める仕組みを見ます。

次のマイルストーンまであと 2 本です。

よくある質問

コンベキシティは大きいほうが得ですか

金利が平行に動くなら得です。曲線の形が変わる動きでは逆転することもあります。

なぜ二次まで取るのですか

一次だけだと金利が大きく動いたときに誤差が目に見えるからです。二次まで取ると実用範囲が広がります。

三次以降は要らないのですか

通常の変動幅なら無視できます。ただし数パーセント動くと三次以降も見えてきます。

参考文献

  1. Fabozzi F. J.、Bond Markets Analysis and Strategies、第9版、Pearson、2015年
  2. Luenberger D. G.、Investment Science、第2版、Oxford University Press、2013年

数値例は compute.py により有理数演算で検算済み。本文中の小数は4桁で丸めている。

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