第30回 相関係数だけでは足りない理由 ― コピュラで同時分布を分解する

第30回 相関係数だけでは足りない理由 ― コピュラで同時分布を分解する

位置: 第3部 第30回 / 前提: 第18回、第29回 / 数学編: M15 / この回でできるようになること: 相関係数が同じでも同時に暴落する度合いが違う2つの組み合わせを、数値で区別できる

目次

0. 物語 ― 相関が同じでも同時の暴落は違う

天気予報を見る習慣のある人なら、降水確率の数字を見ただけで傘を持つかどうか決められます。では、2つの街の天気が「半分くらい連動している」と聞いたとき、「両方の街で同時に大雨になる確率」まで読み取れるでしょうか。

答えはノーです。連動の度合いを示す数値がまったく同じでも、両方の街が同時に大雨に見舞われる確率は倍以上違うことがあります。大雨のときだけ特に強く連動する組み合わせと、良い日も悪い日もまんべんなく連動する組み合わせでは、平均の連動は同じでも極端な日の振る舞いが違うからです。

投資の世界でもこれと同じことが起きます。2つの資産の値動きの連動を測った数値がどちらも約 0.50 である、2通りの組み合わせを用意します。一方では、両方の資産が同時に下位 5% まで値下がりする確率は約 1.2% です。もう一方では約 2.6% になります。後者は前者の約 2.1 倍です。

連動を要約する数値はほぼ同じなのに、同時の暴落は倍以上違います。この差の正体は、2つの資産がどう結びついているかの「形」にあります。それぞれの資産を単独で見たときの分布と、結びつき方の形は、別々の情報です。普段は似た動きをしていても、極端に悪い場面で一緒に崩れるのか、それともバラバラに動くのか。その違いは、連動の度合いを表す数値ひとつには収まりきりません。

この回では、どんな同時分布でも「単独の分布」と「結びつき方の形」に一意に分解できることを証明し、結びつき方を取り替えるだけで同時暴落の確率がどう変わるかを数値で確かめます。

1. 動機 ― 相関係数が同じでも危険度は同じではない

この回を読み終えると、相関係数が同じでも同時に暴落する度合いが違う2つの組み合わせを、数値で区別できるようになります。

2つの資産の値動きの関係を、相関係数ひとつで要約するのは自然な発想です。しかし相関係数が同じであっても、同時に大きく下がる確率は倍以上違い得ることを、物語で見ました。

この差が生まれる仕組みを理解するには、周辺分布(各資産を単独で見たときの分布)と依存構造(2つの変数の結びつき方)を分けて考える道具が必要です。それがコピュラです。

今回は、同時分布を周辺分布とコピュラに分解するスクラーの定理を紹介し、コピュラを取り替えると何が変わるのかを証明と数値で確かめます。

この記事で証明すること

  • THM-CO-1 任意の同時分布関数は、各変数の周辺分布関数と1つのコピュラによって表せます(スクラーの定理、証明は引用にとどめます)。
  • THM-CO-2 周辺分布を固定したままコピュラだけを取り替えると、各変数の分布は変わらないのに同時の振る舞いだけが変わります。
  • THM-CO-3 相関係数が同じでも、両方が同時に大きく下落する確率はコピュラによって異なります。正規コピュラの裾依存は 0 です。

2. 設定と仮定 ― 周辺分布と依存構造を分けて考える

2つの連続確率変数 を考えます。以下の仮定を置きます。

  • 周辺分布は連続とします。つまり の累積分布関数 はそれぞれ連続です。一意性の議論はこの場合に限ります。
  • コピュラは、各変数を一様分布に変換したうえでの同時分布として扱います。
  • 数値実験では乱数のシードを固定します(シード 42、200万サンプル)。
  • 扱うのは2変数の場合に限ります。

の累積分布関数を と書きます。 が連続なとき、確率積分変換によって は区間 上の一様分布に従います。つまり、どんな分布の確率変数も、自身の分布関数を通せば一様分布に「揃える」ことができます。

コピュラ とは、 上の同時分布関数であって、各周辺分布が 上の一様分布であるものです。具体的には、 と書いたとき、 かつ が全ての で成り立ちます。

直感的に言えば、コピュラは「分布の形を取り除いた後に残る、変数の結びつき方そのもの」です。

この節のまとめ: 確率積分変換で各変数を一様分布に揃え、その一様変数たちの同時分布としてコピュラを定義します。

3. 主張 ― 同時分布は周辺分布とコピュラに分解できる

定理 THM-CO-1(スクラーの定理) 同時分布関数 に対し、あるコピュラ が存在して

が成り立つ。さらに が連続ならば、 は一意に定まる。

この定理は「どんな同時分布も、周辺分布とコピュラに分解できる」と述べています。しかも周辺分布が連続なら、分解の仕方は一通りしかありません。

本記事では THM-CO-1 の証明は引用にとどめます。証明は Nelsen (2006) の定理 2.3.3 にあります。ここでは、定理が成り立つ直感を確認します。

が連続で狭義単調増加なとき、逆関数 が存在します。 は一様分布に従うので、 の同時分布関数がコピュラ そのものです。つまり

です。(1.1) に を代入すれば (1.2) が得られます。 が決まれば が一つに決まるので、一意性も自然に理解できます。

定理 THM-CO-2(周辺分布と依存構造の分離) 周辺分布 を固定したまま、コピュラ を別のコピュラ に取り替えると、各変数 の周辺分布はそのまま変わらないが、同時分布 は変わる。

定理 THM-CO-3(裾依存) 2変量正規コピュラの下側裾依存係数 は、 のとき である。すなわち

この節のまとめ: スクラーの定理により、同時分布は周辺分布とコピュラに一意に分解されます。周辺分布を変えずにコピュラだけを取り替えれば、同時の振る舞いだけが変わります。

証明を読む(読まなくても記事は完結します)

4. 証明 ― 一様分布への変換で依存構造だけを取り出す

この節は読まなくても記事は完結します。

この証明を追いたい人は、数学編 第15回「変数変換とヤコビアン」へ。

THM-CO-2 の証明

周辺分布を固定してコピュラを取り替えても周辺分布が変わらないこと、そして同時分布は変わることを示します。

スクラーの定理 (1.1) により、コピュラ を使った同時分布関数は

です。 の周辺分布を取り出すために とします。 は分布関数なので です。コピュラの定義から なので

同様に とすれば が得られます。この計算はコピュラ の具体的な形に依存しません。コピュラの条件 だけを使っています。

したがって、コピュラを から別のコピュラ に取り替えて新しい同時分布 を作っても、

となり、周辺分布は変わりません。しかし であれば、ある で ですから、対応する で

が成り立ちます。ここで が連続であることから、中間値の定理により、任意の に対して となる が存在することを使っています。

以上により、周辺分布は変わらず、同時分布だけが変わることが示されました。 ∎

THM-CO-3 の証明

2変量正規コピュラの下側裾依存係数が 0 であることを示します。

2変量正規コピュラにおいて、 は次のように生成されます。 を相関 の2変量標準正規分布に従う確率変数とし、 とします。ここで は標準正規分布の分布関数です。

下側裾依存係数は

です。 は と同値なので、 とおけば

のとき です。分子の同時確率は、2変量標準正規分布の分布関数で

と書けます。

この極限を評価するために、条件付き確率の形に書き直します。

という条件の下で、 の条件付き分布を考えます。 が与えられたとき、 は平均 、分散 の正規分布に従います。( が十分小さいとき)では、条件付き平均 は かつ なら です。

鍵となるのは、 のとき、 と が同時に起こるには2つの変数がそろって極端に小さくならなければならないことです。 のとき、 は を完全には追従しないため、この同時確率は よりも速く 0 に近づきます。以下でこれを示します。示すべきは、 のとき

です。

分子を和の分布で上から抑えます。 かつ ならば ですから、事象の包含関係から

です。 は2変量正規分布に従うので、和 は平均 0、分散 の正規分布に従います。標準化すると

です。 なので です。ここで相関が 1 未満であるという仮定が効きます。

分母を下から抑えます。 のとき、 は区間 で増加しているので、その区間での最小値は です。したがって

です。

分子をさらに上から抑えます。 第20回の THM-ND-3(裾の上界)を に使うと、正規分布の対称性 から

です。

比を評価します。 以上を合わせると、 で

となります。ここで です。 なので、 のとき となり、指数の因子は 0 に向かいます。前の因子 も 0 に向かうので、(2.7) の右辺は 0 に収束します。左辺は確率の比なので 0 以上です。はさみうちにより (2.5) が成り立ち、(2.4) と合わせて

が得られます。この議論は の符号によらず の全体で成り立ちます。

よって です。 ∎

この結果は「正規分布を仮定すると、極端な同時下落の傾向を見逃す」ことを意味しています。一方、クレイトンコピュラのように をもつコピュラも存在します。パラメータ のクレイトンコピュラでは であることが知られています。

5. 反例 ― 同じ相関でも同時下落の確率は桁で違う

CEX-CO-1: 相関係数が同じなのに同時下落の確率が違う

「相関係数が同じなら同時の振る舞いも同じ」という理解が誤りであることを、数値で示します。

2つの同時分布を作ります。どちらも周辺分布は標準正規で、ピアソン相関係数はほぼ同じ(約 0.50)です。

  • 正規コピュラ(): 相関係数 = 0.4992
  • クレイトンコピュラ(): 相関係数 = 0.4989

相関係数はほぼ同じですが、両方が下位 5% に入る確率は

正規コピュラ クレイトンコピュラ
相関係数 0.4992 0.4989
両方が下位 5% に入る確率 1.2172% 2.5680%

クレイトンコピュラの同時下落確率は、正規コピュラの 2.11 倍です。相関係数はほぼ同じなのに、同時に大きく下がる確率は2倍以上異なります。これが裾依存の有無の違いです。

CEX-CO-2: 周辺分布が正規なのに同時分布が正規でない

「周辺分布が正規なら同時分布も正規」という思い込みが誤りであることを示します。

上の2つの同時分布(正規コピュラとクレイトンコピュラ)は、どちらも周辺分布が標準正規です。同時分布が正規なら、 の値による条件を付けたときの の条件付き平均は、 の値に対して対称的に変化するはずです。

のパーセンタイル区間ごとに の条件付き平均を計算します。

の区間 正規コピュラでの クレイトンでの
0–10%
10–25%
25–50%
50–75%
75–90%
90–100%

正規コピュラでは、下端と上端の条件付き平均の絶対値がほぼ対称です( と )。一方クレイトンコピュラでは、下端が と大きく引っ張られるのに対し、上端は と控えめです。

さらに、 が下位 10% に入る領域での局所的な相関は 0.5014、上位 10% の領域では 0.0192 です。同時分布が正規なら、これらはほぼ等しいはずです。この非対称性が、周辺分布が正規でも同時分布が正規とは限らないことの証拠です。

CEX-CO-3: 相関係数はどんな範囲でも取れるとは限らない

「相関係数は から のどこでも取れる」という思い込みが、周辺分布を固定したときには成り立たないことを示します。

、(対数正規分布)とします。コピュラをフレシェ・ヘフディングの上限コピュラ(完全な正の依存)に設定しても、ピアソン相関係数の上限は

です。同様に下限コピュラ(完全な負の依存)でも

です。 のとき、相関係数の取りうる範囲は にしかならず、 の全体をカバーしません。

これは、周辺分布の形が異なると、コピュラでどれだけ強く結びつけても相関係数には限界があることを示しています。相関係数は依存の強さを測る万能な尺度ではありません。

この節のまとめ: 3つの反例により、相関係数だけでは同時分布の振る舞いを捉えきれないことを確認しました。

6. 数値例 ― 2つのコピュラで同時下落確率を比べる

正規コピュラの裾依存が 0 に向かう様子を数値で確認します。閾値 を小さくしながら、 を計算します。正規コピュラは2変量正規分布の解析的な CDF から、クレイトンコピュラは 200万サンプルのモンテカルロから計算しています。

正規コピュラ クレイトンコピュラ
0.1000 0.3240 0.5268
0.0500 0.2438 0.5136
0.0100 0.1294 0.4993
0.0050 0.0993 0.5004
0.0010 0.0543 0.4945
0.0001 0.0233 0.4150

正規コピュラの条件付き確率は が小さくなるにつれて単調に減少し、0 に向かっています。これが THM-CO-3 で証明した の数値的な確認です。

一方、クレイトンコピュラ()の条件付き確率はおよそ 0.5 付近にとどまっています。理論値は です。 の行でモンテカルロの揺らぎが見えますが、極端な裾のサンプル数が少ないためで、理論値は 0.5 に収束します。

この結果は実務上重要です。正規コピュラを使ってポートフォリオのリスクを評価すると、「極端な同時下落」の確率を過小に見積もります。裾依存のあるコピュラを使えば、その危険を定量できます。

この節のまとめ: 正規コピュラでは裾に近づくほど同時下落の条件付き確率が 0 に向かい、クレイトンコピュラでは正の値にとどまることを、数値で確かめました。

7. 次回へ ― リスクとリターンを測る言葉

今回、相関係数だけでは2つの資産の同時の振る舞いを記述しきれないことを見ました。同時分布は周辺分布とコピュラに分解でき、コピュラを取り替えることで裾の依存構造を変えられます。

次回(第31回)からは第4部に入ります。リスクとリターンを測る言葉を用意し、ポートフォリオ理論へ進みます。

次のマイルストーンまであと 12 本です。

よくある質問

コピュラは難しそうですが必要ですか

相関係数だけで安心してよいか、を判断するために要ります。同時に大きく下がる確率は相関係数に表れません。

周辺分布とは何ですか

それぞれの資産を単独で見たときの分布です。組み合わせたときの動き方とは別の情報です。

裾依存とは何ですか

両方が同時に極端な値を取る傾向のことです。正規分布を仮定すると、この傾向がゼロとして扱われます。

参考文献

  1. Nelsen R. B.、An Introduction to Copulas、第2版、Springer、2006年
  2. McNeil A. J.、Frey R. and Embrechts P.、Quantitative Risk Management、改訂版、Princeton University Press、2015年

数値例は compute.py により200万サンプルのモンテカルロで計算(シード42固定)。解析計算が可能な箇所は scipy の2変量正規分布 CDF を使用。

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