位置: 第9部 第91回 / 前提: 第11回、第64回、第90回 / 数学編: M23 / この回でできるようになること: フォワードレート全体のモデルで、ボラティリティを決めるとドリフトが決まってしまう理由を説明できる
目次
0. 物語 ― ドリフトを自由に決めると裁定が生まれる
金利のトレーディングデスクで、新しいモデルを組む場面を想像してください。フォワードレートの動き方を決めるために、変動の大きさと、どちらに流れやすいかという傾きの2つを設定しなければなりません。
ふつうの感覚では、この2つは別々に選べそうに思えます。変動の大きさを先に決め、傾きは市場の見通しに合わせて好きに決めればいい、と。ところが、この「好きに決める」が致命的な問題を引き起こします。
たとえば変動の大きさを年率10パーセントに固定して、傾きをゼロに設定したとします。フラットな金利カーブのもとで3年物の割引債を20万経路でシミュレーションすると、割引値の平均は0.9013になります。一方、理論上の債券価格は0.8607です。平均が理論値よりも4パーセントも高い。これは「この債券は本来の値段より安い」ということを意味しますから、この債券を買って資金を市場金利で調達すれば、平均的に利益が出ます。タダで儲かる機会、つまり裁定です。
傾きを3倍にしても事情は同じで、今度は平均が0.7877に下がり、逆方向に7パーセントもずれます。正しい傾きはたった一つしかなく、それは変動の大きさから自動的に決まります。正しい値を使ったときだけ、平均は理論値と一致し、裁定が消えます。
フォワードレートカーブ全体をモデル化するとき、変動の大きさを決めた瞬間に傾きの自由度はなくなる。これが、この回で導くドリフト条件の意味です。
1. 動機 ― 短期金利1本では足りない
この回を読み終えると、フォワードレート全体のモデルで、ボラティリティを決めるとドリフトが決まってしまう理由を説明できます。
Vasicek モデルや CIR モデルは、短期金利 rt の確率微分方程式を1本書いて、そこから満期ごとの割引債価格を導出しました。この方法は簡潔ですが、根本的な問題があります。モデルから出てくるイールドカーブの形が、パラメータの数だけしか自由度を持たないのです。
市場で観測されるフォワードカーブは、満期 T ごとに値を持つ関数です。T=1 年のフォワードレートと T=10 年のフォワードレートは、それぞれ独立に観測されます。短期金利モデルの3つや4つのパラメータで、この無限次元の情報を正確に再現するには限界があります。
Heath, Jarrow, Morton(1992)は発想を逆転させました。短期金利を出発点にするのではなく、フォワードレートカーブ全体の動きを直接モデル化するのです。すると驚くべきことに、無裁定の条件が「ドリフトはボラティリティから自動的に決まる」という強い制約になります。
今回はこの HJM フレームワークのドリフト条件を導出し、その意味と限界を数値で確認します。
この記事で証明すること
- THM-HJM-1 無裁定であるためには、フォワードレートのドリフトがボラティリティ関数だけで完全に決まります。
- THM-HJM-2 ボラティリティ関数を σe−κ(T−t) と選ぶと、Hull-White モデルが特別な場合として得られます。
- THM-HJM-3 一般のボラティリティ関数では短期金利がマルコフ過程にならないことがあり、そのとき計算が経路に依存します。
2. 設定と仮定 ― フォワードカーブ全体を動かす
リスク中立測度 Q のもとで考えます。以下のすべての確率過程は Q のもとでの記述です。
瞬間フォワードレートとは、時刻 t に観測される、将来の瞬間 T での金利を表す量 f(t,T) です。これと割引債価格 P(t,T) は次の関係で結ばれます。
P(t,T)=exp(−∫tTf(t,s)ds)(1.1)
逆に言えば、f(t,T)=−∂T∂lnP(t,T) です。
短期金利は rt=f(t,t) で定義されます。フォワードレートの「満期ゼロ」の極限です。
HJM の仮定: 各満期 T に対して、瞬間フォワードレートは次の伊藤過程に従います。
df(t,T)=α(t,T)dt+σ(t,T)dWt(1.2)
ここで
- α(t,T): ドリフト(t と T の関数)
- σ(t,T): ボラティリティ(t と T の関数)
- Wt: Q のもとでの標準ブラウン運動
1ファクターの場合を中心に扱います。Wt は1次元です。
今日のフォワードカーブ f(0,T) は観測値として与えます。モデルの出発点は推定ではなく、市場データそのものです。
(1.2) を積分すると、時刻 t でのフォワードレートは
f(t,T)=f(0,T)+∫0tα(s,T)ds+∫0tσ(s,T)dWs(1.3)
と書けます。初期値 f(0,T) に、ドリフトによる系統的な変化と、ブラウン運動による確率的な変動が加わります。
HJM フレームワークの核心は、無裁定の条件が α(t,T) と σ(t,T) の間に厳密な関係を要求する、という点です。
3. 主張 ― ドリフトはボラティリティで決まる
定理 THM-HJM-1(ドリフト条件)
リスク中立測度 Q のもとで無裁定であるためには、瞬間フォワードレートのドリフトは
α(t,T)=σ(t,T)∫tTσ(t,s)ds(2.1)を満たす必要がある。ボラティリティ関数 σ(t,T) を決めれば、ドリフト α(t,T) は一意に定まる。
この定理は、モデルの自由度がボラティリティ関数 σ(t,T) だけであることを意味します。ドリフトは「選ぶ」ものではなく、無裁定の条件から「決まる」ものです。
定理 THM-HJM-2(短期金利モデルとの関係)
ボラティリティ関数を σ(t,T)=σ0e−κ(T−t)(σ0,κ>0 は定数)と選ぶと、短期金利 rt=f(t,t) は
drt=(θ(t)−κrt)dt+σ0dWtに従い、Hull-White モデルが得られる。
定理 THM-HJM-3(マルコフ性の喪失)
一般のボラティリティ関数 σ(t,T) のもとでは、短期金利 rt=f(t,t) はマルコフ過程になるとは限らない。例えば σ(t,T)=σ0(T−t) のとき、rt の将来の動きは、rt の現在値だけでなく、ブラウン運動の過去の経路に依存する。
証明を読む(読まなくても記事は完結します)
4. 証明 ― 割引債の割引値がマルチンゲールである条件から導く
この節は読まなくても記事は完結します。
この証明を追いたい人は、数学編 第23回「ラドン・ニコディム微分」へ。
THM-HJM-1 の証明
無裁定であるためには、割引債価格の割引値
BtP(t,T),Bt=exp(∫0trsds)
が Q のもとでマルチンゲールである必要があります。Bt はマネーマーケットアカウント(安全資産に連続的に再投資した累積価値)です。
ステップ1: 割引債価格を f で表す。
(1.1) より P(t,T)=exp(−∫tTf(t,s)ds) です。これに (1.3) を代入すると
∫tTf(t,s)ds=∫tTf(0,s)ds+∫tT(∫0tα(u,s)du)ds+∫tT(∫0tσ(u,s)dWu)ds
と書けます。右辺の第2項と第3項で、s についての積分と u についての積分(および確率積分)の順序を交換します。
∫tTf(t,s)ds=∫tTf(0,s)ds+∫0t(∫tTα(u,s)ds)du+∫0t(∫tTσ(u,s)ds)dWu(3.1)
ステップ2: lnP(t,T) に伊藤の公式を適用する。
lnP(t,T)=−∫tTf(t,s)ds の t に関する微小変化を計算します。(1.3) から
df(t,s)=α(t,s)dt+σ(t,s)dWt
ですから、∫tTf(t,s)ds の変化は2つの寄与を持ちます。1つは積分の下端 t が動くことによる f(t,t)dt=rtdt の寄与、もう1つは被積分関数 f(t,s) 自体の変化です。
d(∫tTf(t,s)ds)=−rtdt+∫tTdf(t,s)ds
下端が dt だけ増えると、積分区間が狭まるので −f(t,t)dt=−rtdt の寄与が出ます。被積分関数の変化を代入すると
d(∫tTf(t,s)ds)=−rtdt+∫tTα(t,s)dsdt+∫tTσ(t,s)dsdWt(3.2)
を得ます。したがって
dlnP(t,T)=−d(∫tTf(t,s)ds)=rtdt−∫tTα(t,s)dsdt−∫tTσ(t,s)dsdWt
です。
ステップ3: P(t,T) の SDE を書く。
P=elnP に伊藤の公式を適用します。dP=PdlnP+21P(dlnP)2 より
P(t,T)dP(t,T)=dlnP+21(dlnP)2
(dlnP)2 の計算で生き残るのは (dWt)2=dt の項だけです。
(dlnP)2=(∫tTσ(t,s)ds)2dt
ここで表記を簡潔にするため
Σ(t,T):=∫tTσ(t,s)ds(3.3)
と置きます。Σ(t,T) は割引債のボラティリティに対応する量です。これを使うと
P(t,T)dP(t,T)=(rt−∫tTα(t,s)ds+21Σ(t,T)2)dt−Σ(t,T)dWt(3.4)
ステップ4: 割引値のドリフトをゼロにする。
割引値 P~(t,T)=P(t,T)/Bt を考えます。dBt=rtBtdt なので、商の伊藤の公式(あるいは dP~=d(P⋅B−1) を展開して)
P~dP~=PdP−rtdt=(−∫tTα(t,s)ds+21Σ(t,T)2)dt−Σ(t,T)dWt(3.5)
P~ がマルチンゲールであるためには、dt の係数(ドリフト)がゼロでなければなりません。
−∫tTα(t,s)ds+21Σ(t,T)2=0
すなわち
∫tTα(t,s)ds=21Σ(t,T)2=21(∫tTσ(t,s)ds)2(3.6)
ステップ5: T で微分してドリフト条件を得る。
(3.6) の両辺を T で微分します。左辺は
右辺は連鎖律を使います。Σ(t,T)=∫tTσ(t,s)ds の T 微分は σ(t,T) です。したがって
∂T∂21Σ(t,T)2=Σ(t,T)⋅σ(t,T)=σ(t,T)∫tTσ(t,s)ds
両辺を等しいと置いて
α(t,T)=σ(t,T)∫tTσ(t,s)ds
これが (2.1) です。ボラティリティ σ(t,T) を決めた瞬間に、ドリフト α(t,T) は一意に定まります。 ∎
THM-HJM-2 の証明(要点)
σ(t,T)=σ0e−κ(T−t) を (2.1) に代入します。積分を計算するため、τ=T−t と置きます。
∫tTσ(t,s)ds=σ0∫tTe−κ(s−t)ds=κσ0(1−e−κ(T−t))(3.7)
被積分関数 e−κ(s−t) を s=t から s=T まで積分した結果です。したがってドリフト条件 (2.1) は
α(t,T)=σ0e−κ(T−t)⋅κσ0(1−e−κ(T−t))=κσ02e−κ(T−t)(1−e−κ(T−t))(3.8)
を与えます。
短期金利 rt=f(t,t) の SDE を求めるには、(1.3) で T=t と置いた式を t で微分します。まずドリフトの積分を計算します。u=t−s と置き換えると
∫0tα(s,t)ds=κσ02∫0t(e−κu−e−2κu)du=2κ2σ02(1−e−κt)2
です。これを g(t) とおき、確率積分の部分を Xt=σ0∫0te−κ(t−s)dWs とおくと、rt=f(0,t)+g(t)+Xt です。Xt は dXt=−κXtdt+σ0dWt を満たします(eκtXt の微分が σ0eκtdWt になることから分かります)。Xt=rt−f(0,t)−g(t) を代入すると
drt=(∂t∂f(0,t)+g′(t)+κf(0,t)+κg(t)−κrt)dt+σ0dWt
となります。g′(t)+κg(t)=2κσ02(1−e−κt)(2e−κt+1−e−κt)=2κσ02(1−e−2κt) なので、
θ(t)=∂t∂f(0,t)+κf(0,t)+2κσ02(1−e−2κt)
とおけばドリフトは θ(t)−κrt と書けます。これは Hull-White モデルそのものです。時間依存の θ(t) は初期フォワードカーブ f(0,t) とモデルパラメータから決まります。 ∎
THM-HJM-3 の証明(要点)
一般のボラティリティ σ(t,T) のもとで、rt=f(t,t) を書き下します。(1.3) で T=t と置くと
rt=f(t,t)=f(0,t)+∫0tα(s,t)ds+∫0tσ(s,t)dWs(3.9)
右辺の確率積分 ∫0tσ(s,t)dWs の被積分関数は σ(s,t) であり、これが s と t の両方に依存します。
rt が将来どう動くかを知るには、rt の値だけでは不十分です。確率積分の「中身」の構造、すなわち過去のブラウン運動の経路がどのように σ(s,t) を通じて蓄積されてきたかの情報が必要です。
THM-HJM-2 の σ(t,T)=σ0e−κ(T−t) の場合は、σ(s,t)=σ0eκs⋅e−κt と s の部分と t の部分の積に分かれます。そのため確率積分 Xt を t で微分すると dXt=−κXtdt+σ0dWt と Xt 自身で閉じ、Xt=rt−f(0,t)−g(t) なので、マルコフ性が保たれます。
一方 σ(t,T)=σ0(T−t) では、同じ T−t だけの関数でもこの積の形になりません。確率積分は Yt=σ0∫0t(t−s)dWs で、σ(t,t)=0 より dYt=σ0Wtdt です(伊藤の公式で t について微分すると、上端からの項は 0、被積分関数の t 微分から σ0∫0tdWs=σ0Wt が出ます)。したがって rt の変化率には Wt が入りますが、Wt は rt=f(0,t)+(確定的な項)+σ0∫0tWudu の値からは決まりません。同じ rt の値でも、そこに至る経路によって Wt が違い、将来の動きが違います。こうして「閉じる」構造が失われます。
マルコフ性がないと、数値計算で再結合ツリーが構成できません。n ステップの二項ツリーで再結合するなら節点数は n+1 ですが、再結合しない場合は 2n に爆発します。 ∎
5. 反例 ― ドリフトを自由に選ぶと裁定になる
CEX-HJM-1: ドリフト条件を満たさないと割引値がマルチンゲールにならない
ボラティリティ σ(t,T)=0.10 の一定値を使います。初期フォワードカーブは f(0,T)=0.05(フラット)、割引債の満期は T=3 です。
ドリフト条件が要求するドリフトは (2.1) から
です。t=0, T=3 では α(0,3)=0.12×3=0.03、t=0.5, T=3 では α(0.5,3)=0.12×2.5=0.025 となります。
割引債価格の理論値は P(0,3)=e−0.05×3=0.860708 です。
20万経路のモンテカルロシミュレーションで、割引値 exp(−∫0Trsds) の期待値を計算しました。
| ドリフト |
割引値の期待値 |
P(0,T) からのずれ |
| 正しいドリフト(1×) |
0.861706 |
+0.000998(標準誤差の2倍以内) |
| ドリフト =0(0×) |
0.901267 |
+0.040559 |
| ドリフト3倍(3×) |
0.787717 |
−0.072991 |
正しいドリフトでは、割引値の期待値が理論値 0.860708 に、標準誤差 0.000589 の2倍(約95%の信頼区間の幅)以内で一致しています。これは割引値がマルチンゲールであること、すなわち無裁定が保たれていることの数値的な確認です。
一方、ドリフトをゼロにすると期待値は 0.901267 に跳ね上がり、理論値から +0.0406 ずれます。ドリフトを3倍にすると 0.787717 に下がり、−0.0730 ずれます。いずれもマルチンゲール性が破れており、この割引債を使って裁定が構成できます。
ドリフト =0 の場合、割引値の期待値が P(0,T) より大きいということは、割引債が系統的に「安く評価されている」ことを意味します。この割引債を買い、マネーマーケットアカウントで資金調達すれば、期待利益が正になります。ドリフトは自由に選べるパラメータではなく、無裁定の条件から決まる量なのです。
CEX-HJM-2: マルコフ性がなければ計算が爆発する
一般のボラティリティ関数(例えば σ(t,T)=σ0(T−t))を選ぶと、短期金利はマルコフ過程になりません(THM-HJM-3)。このとき、二項ツリーの再結合が起きず、節点数が指数的に増大します。
| ステップ数 |
再結合(マルコフ) |
非再結合(非マルコフ) |
| 5 |
6 |
32 |
| 10 |
11 |
1,024 |
| 15 |
16 |
32,768 |
| 20 |
21 |
1,048,576 |
20ステップで100万超の節点が必要になります。実務で必要な数百ステップでは、節点数が天文学的な数になり、計算が不可能です。これが「HJM ならどんなボラティリティでも扱いやすい」わけではない理由です。計算可能なモデルを得るには、ボラティリティ関数をマルコフ性が保たれる形(THM-HJM-2 のような指数減衰型)に制限する必要があります。
CEX-HJM-3: 1ファクターではカーブのねじれを表現できない
1ファクター HJM では、すべての満期のフォワードレートが同一のブラウン運動 Wt で駆動されます。(1.3) を見ると、確率的な部分 ∫0tσ(s,T)dWs は同じ Wt を使っています。
σ(t,T)=σ(一定)の場合、f(t,T) の確率的部分は σWt であり、満期 T に依存しません。したがって、任意の2つの満期 T1,T2 に対して
Corr(f(t,T1),f(t,T2))=1
です。数値で確認すると、T1=1(短期)と T2=10(長期)のフォワードレートの相関は 1.000000 になります。
現実の金利市場では、短期と長期のフォワードレートの相関は1未満です。たとえば中央銀行の利上げで短期金利が上昇しても、長期金利が連動しないことはよくあります。カーブの「ねじれ」(短期が上がり長期が下がる、あるいはその逆)を表現するには、複数のファクター(複数の独立なブラウン運動)が必要です。
6. 数値例 ― 割引債の割引値の期待値を確かめる
上の反例で用いた数値を整理します。パラメータは σ=0.10、f(0,T)=0.05(フラット)、T=3 です。
ドリフト条件の計算
一定ボラティリティ σ(t,T)=σ のとき、(2.1) のドリフト条件は
です。t=0 では α(0,3)=0.01×3=0.03、t=0.5 では α(0.5,3)=0.01×2.5=0.025 です。満期に近づくほどドリフトが小さくなります。
指数減衰型ボラティリティの場合
σ(t,T)=0.01⋅e−0.1(T−t)、κ=0.1、T=5 のとき、(3.8) から
α(0,5)=0.10.012e−0.1×5(1−e−0.1×5)=0.00023865
です。ドリフトは非常に小さい値ですが、これを無視すると無裁定が崩れます。
シミュレーションの結果
乱数のシードを 42 に固定し、20万経路・600ステップで実行しました。正しいドリフトでの割引値の期待値 0.861706 は、理論値 P(0,3)=e−0.15=0.860708 と、標準誤差の2倍以内で一致しています。これはドリフト条件が割引値のマルチンゲール性を正しく保証していることの数値的な証拠です。
7. 次回へ ― 観測できる金利を直接扱う
HJM フレームワークは、フォワードレートカーブ全体を無裁定に動かすための一般的な枠組みを提供します。モデルの自由度はボラティリティ関数 σ(t,T) だけで、ドリフトは自動的に決まります。
しかし、瞬間フォワードレート f(t,T) は市場で直接観測される量ではありません。市場で取引されるのは LIBOR のような離散的な金利です。
次回(第92回)では、観測できる金利を直接モデル化する金利市場モデルを扱います。
よくある質問
HJM はモデルですか
特定のモデルというより、無裁定なモデルを作るための枠組みです。ボラティリティ関数を具体的に指定して初めて、計算可能なモデルになります。
なぜドリフトが決まってしまうのですか
無裁定の条件がそれだけ強いからです。ボラティリティを決めれば残りは自動で決まります。割引債の割引値がマルチンゲールであるという条件を課すと、ドリフトの自由度がゼロになります。
実務で使われていますか
考え方は広く使われています。計算の扱いやすさから、次回の市場モデルが好まれる場面も多いです。HJM のドリフト条件は、金利モデルの無裁定性を保証するための基本的な道具です。
参考文献
- Heath D.、Jarrow R. and Morton A.、Bond Pricing and the Term Structure of Interest Rates ― A New Methodology、Econometrica、1992年、DOI 10.2307/2951677
- Brigo D. and Mercurio F.、Interest Rate Models ― Theory and Practice、第2版、Springer、2006年
数値例は compute.py によりシミュレーションで検算済み。乱数のシードは 42 に固定。本文中の小数は6桁で丸めている。