位置: 数学編 第A部 M1 / 前提: なし / 数学編: なし / この回でできるようになること: 連続複利で e が現れる理由を、数列の極限として自分で証明できる
目次
0. 物語 ― 有界なのに収束しない数列
数学で数列を習ったとき、「値がある範囲に収まっているなら、いずれどこかの数に落ち着くだろう」と感じたことはないでしょうか。高校では、項が際限なく大きくなる数列は発散する、ある値に近づく数列は収束する、と分けて終わりでした。しかし、値がきちんと範囲に収まっているのに、それでも収束しない数列があります。
いちばん単純な例は、マイナス1とプラス1を交互に繰り返す並びです。1番目はマイナス1、2番目はプラス1、3番目はまたマイナス1。どこまで進んでもこの繰り返しが続きます。値はマイナス1とプラス1の間に完全に収まっていて、飛び出すことはありません。それなのに、どの一つの数にも近づいていきません。
この並びに足りないのは「一方通行」の性質です。値がずっと増え続ける、あるいはずっと減り続けるという単調さが加わると、有界な数列は必ずある値に収束します。これが「単調有界列の収束」と呼ばれる事実です。
この事実を使うと、ある重要な定数が定義できます。元手を一定の割合で増やすとき、1回でまとめて2倍にすれば2です。10回に分けて増やせば約2.59、100回に分ければ約2.70。分割を細かくするほど値は着実に増えていきますが、3を超えることはありません。増え続けて、しかも上限がある。だから収束します。この極限値がおよそ2.718であり、自然対数の底と呼ばれる定数です。今回は、この収束がなぜ保証されるのかを証明します。
1. 動機 ― なぜ e という数が現れるのか
この回を読み終えると、連続複利で e が現れる理由を、数列の極限として自分で証明できます。
物語で見たように、増え方の刻みを細かくしていくと、最終的な値は無限に大きくなるのではなく、ある特定の数に落ち着きます。それが e=2.7182818285… です。
この数は金融数学の至る所に現れます。連続複利の計算で e が登場する理由は本編第5回で扱いますので、ここでは予告にとどめます。今回は純粋に数学的な側面、つまり「なぜこの極限が存在するのか」「e を底とする指数関数がなぜ特別なのか」を証明します。
この記事で証明すること
- THM-M1-1 数列 (1+1/n)n は n について単調増加し、上に有界です。したがって極限が存在し、これを e と定義します。
- THM-M1-2 任意の実数 x について、(1+x/n)n は n→∞ で ex に収束します。
- THM-M1-3 ex の導関数は ex 自身に等しいです。この性質を持つ指数関数は底が e のものだけです。
この節のまとめ: e は「刻みを無限に細かくした極限」として自然に現れる定数であり、今回はその存在と基本性質を証明します。
2. 設定と仮定 ― 数列の極限を考える
証明に入る前に、使う道具と仮定を整理します。
- 実数の完備性: 上に有界な単調増加列は収束します。これを公理として使います。
- 二項定理: (1+x)n=∑k=0n(kn)xk は既知とします。
- 対数関数: 指数関数の逆関数として定義します。
- 高校数学の範囲を超える道具が必要になった場合は、その場で定義します。
数列 an=(1+1/n)n を考えます。n=1 のとき a1=2.0、n=10 のとき a10=2.5937424601 と、n が大きくなるほど値が増えています。しかし無限に大きくなるわけではありません。この数列が「単調増加かつ上に有界」であることを示せば、実数の完備性から極限の存在が保証されます。
この節のまとめ: 証明の道具は二項定理と実数の完備性の2つです。数列 an=(1+1/n)n の極限の存在を、単調性と有界性から導きます。
3. 主張 ― 単調で有界なら収束する
3つの定理を正確に述べます。
定理 THM-M1-1(単調有界列の収束)
数列 an=(1+1/n)n は n について単調増加であり、上に有界である。したがって極限が存在し、これを e と定義する。
定理 THM-M1-2(一般の指数への拡張)
任意の実数 x について、
が成り立つ。
定理 THM-M1-3(指数関数の微分)
ex の導関数は ex 自身に等しい。すなわち
この性質を持つ指数関数は底が e のものに限られる。
この節のまとめ: e の定義(THM-M1-1)、指数関数との関係(THM-M1-2)、微分の不変性(THM-M1-3)の3つが今回の主張です。
証明を読む(読まなくても記事は完結します)
4. 証明 ― 二項展開で単調性と有界性を示す
この節は読まなくても記事は完結します。
THM-M1-1 の証明
二項定理で an=(1+1/n)n を展開します。
k≥1 の一般項を書き下します。二項係数を階乗で表すと
(kn)nk1=k!(n−k)!n!⋅nk1=k!1⋅nkn(n−1)⋯(n−k+1)
となります。右辺の分数部分を1つずつ取り出すと
nkn(n−1)⋯(n−k+1)=1⋅(1−n1)(1−n2)⋯(1−nk−1)
です。したがって
an=1+k=1∑nk!1j=0∏k−1(1−nj).(4.2)
単調増加の証明。 n を n+1 に置き換えたとき、(4.2) の各項がどう変わるかを見ます。an+1 の展開では和の上限が n+1 に増えるので、an にはなかった k=n+1 の正の項が新たに加わります。さらに k≤n の各項について、因子 ∏j=0k−1(1−j/n) の中の 1−j/n がすべて 1−j/(n+1) に置き換わります。j≥1 のとき j/n>j/(n+1) ですから 1−j/(n+1)>1−j/n です。各因子が大きくなるので積も大きくなり、既存の各項も増加します。新しい項が加わり、既存の項も大きくなるので an+1>an が成り立ちます。
有界性の証明。 (4.2) の各因子 (1−j/n)<1 を 1 で置き換えて上から押さえます。
k≥2 で k!≥2k−1 が成り立ちます。これは k=2 で 2!=2=21 であり、k が1増えるごとに左辺は k+1 倍、右辺は 2 倍になり、k+1≥3>2 なので帰納的に従います。したがって
an<1+1+k=2∑n2k−11<2+k=1∑∞2k1=2+1=3.
上から 3 で押さえられました。実数の完備性(上に有界な単調増加列は収束する)により、limn→∞an が存在します。この極限値を e と定義します。 ∎
THM-M1-2 の証明
x>0 の場合を示します。n>x とすると 1+x/n>0 なので (1+x/n)n は定義できます。m=n/x(m は実数)とおくと
n→∞ のとき m→∞ です。指数を分解するために、bm=(1+1/m)m とおくと
(1+m1)mx=[(1+m1)m]x=bmx.
ここで m は整数とは限らないので、THM-M1-1(整数 n についての結果)をそのまま使う前に、実数 m→∞ でも bm→e となることを確かめます。m≥1 に対して整数 k=⌊m⌋ を取ると k≤m<k+1 です。底は 1+1/(k+1)<1+1/m≤1+1/k、指数は k≤m<k+1 で、底はどれも 1 より大きいので
(1+k+11)k≤bm≤(1+k1)k+1
が成り立ちます。左端は ak+1/(1+1/(k+1))、右端は ak⋅(1+1/k) と書けるので、THM-M1-1 よりどちらも k→∞ で e に収束します。はさみうちにより bm→e です。あとはべき関数 t↦tx の連続性により bmx→ex が得られます。
x<0 の場合は x=−y(y>0)とおきます。
(1+nx)n=(1−ny)n=(1+n−yy)n1.
n−y=n′ とおくと n=n′+y であり
(1+n′y)n′+y=(1+n′y)n′⋅(1+n′y)y.
n′→∞ のとき、第1因子は x>0 の場合の結果から ey に収束します。第2因子は (1+y/n′)y→1y=1 です。よって全体は ey に収束し
x=0 のときは (1+0/n)n=1=e0 となり、主張がそのまま成り立ちます。 ∎
THM-M1-3 の証明
f(x)=ex の導関数を定義に従って計算します。
f′(x)=h→0limhex+h−ex=exh→0limheh−1.(4.4)
e の定義を使うことが目標ですから、limh→0(eh−1)/h=1 を示します。
対数関数 ln を ex の逆関数として定義します。eh−1=s とおくと h=ln(1+s) であり、h→0 のとき s→0 です。よって
ln(1+s)/s の極限を求めます。THM-M1-1 と、THM-M1-2 の証明で示した「実数 m→∞ でも (1+1/m)m→e」を使います。n=1/s(s>0、s→0 のとき n→∞。n は実数)とおくと
sln(1+s)=nln(1+n1)=ln(1+n1)n.
n→∞ で (1+1/n)n→e ですから、ln の連続性により
したがって lims→0+s/ln(1+s)=1 であり、limh→0+(eh−1)/h=1 が得られます。
h→0− のときは −1<s<0 です。s=−1/m(m>1、s→0− のとき m→∞)とおくと、1+s=(m−1)/m なので
sln(1+s)=mlnm−1m=ln(1+m−11)m=ln[(1+m−11)m−1(1+m−11)]
です。括弧内の第1因子は実数 m−1→∞ で e に、第2因子は 1 に収束するので、ln の連続性により全体は lne=1 に収束します。よって limh→0−(eh−1)/h=1 でもあります。
(4.4) に戻すと
一意性の証明。 a>0、a=e として g(x)=ax の導関数を求めます。ax=exlna と書けますから、合成関数の微分により
g′(x)=g(x) が成り立つには lna=1、すなわち a=e が必要です。a=e のとき lna=1 なので、微分すると lna 倍のずれが生じます。 ∎
5. 反例 ― 条件が1つ欠けると収束しない
THM-M1-1 では「単調増加」と「上に有界」の2条件がそろって初めて収束が保証されました。どちらか片方だけでは不十分です。
CEX-M1-1: 単調増加だが有界でない列
数列 bn=(1+1/n)n2 を考えます。an=(1+1/n)n は e に収束しましたが、指数を n から n2 に変えると話が一変します。
| n |
(1+1/n)n2 |
| 1 |
2.0 |
| 10 |
13780.612340 |
| 100 |
≈1.636×1043 |
| 1000 |
≈e999.5 |
| 10000 |
≈e9999.5 |
lnbn=n2ln(1+1/n) について、nln(1+1/n)→1 ですから lnbn≈n→∞ です。単調増加ではあるものの上に有界ではないので、発散します。「増え続ける」だけでは収束は言えません。
CEX-M1-2: 有界だが単調でない列
数列 cn=(−1)n を考えます。
| n |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
| cn |
−1 |
1 |
−1 |
1 |
−1 |
1 |
−1 |
1 |
∣cn∣=1 なので有界ですが、−1 と 1 を交互に繰り返すため、どの値にも近づきません。有界なだけでは収束は保証されず、単調性(あるいはそれに代わる条件)が必要です。
CEX-M1-3: 1の無限乗は1ではない
(1+1/n)n で n→∞ とするとき、底 1+1/n は 1 に近づき、指数 n は無限大に向かいます。「底が 1 に近いのだから 1∞=1 だろう」と素朴に計算すると誤ります。
| n |
底 1+1/n |
素朴な計算 1∞ |
実際の値 |
| 10 |
1.1 |
1 |
2.5937424601 |
| 100 |
1.01 |
1 |
2.7048138294 |
| 1000 |
1.001 |
1 |
2.7169239322 |
| 10000 |
1.0001 |
1 |
2.7181459268 |
底が 1 に近づく速さと指数が大きくなる速さの「勝負」によって極限が決まります。(1+1/n)n では両者がちょうど釣り合い、e≈2.7182818285 という 1 でも ∞ でもない値に収束します。項ごとに極限を取る操作は、指数が変動する場合には正当化できません。
この節のまとめ: 単調性と有界性はどちらも収束に必要であり、「1∞=1」という素朴な計算は成り立ちません。
6. 数値例 ― n を百万まで増やす
(1+1/n)n の値を n が大きくなるにつれて追いかけます。
| n |
(1+1/n)n |
e との差 |
e/(2n) |
差 /(e/(2n)) |
| 1 |
2.0 |
0.7182818285 |
1.3591409142 |
0.528482 |
| 10 |
2.5937424601 |
0.1245393684 |
0.1359140914 |
0.916309 |
| 100 |
2.7048138294 |
0.0134679990 |
0.0135914091 |
0.990920 |
| 10000 |
2.7181459268 |
0.0001359016 |
0.0001359141 |
0.999908 |
| 1000000 |
2.7182804691 |
0.0000013594 |
0.0000013591 |
1.000164 |
n=1000000 で e との差はおよそ 1.36×10−6 まで縮みます。最後の列を見ると、差はおおむね e/(2n) で近似できることがわかります。n が大きくなるほど比が 1 に近づいており、収束の速さが O(1/n) であることが数値的に確認できます。
THM-M1-2 の x=0.05 での収束も確認します。
| n |
(1+0.05/n)n |
e0.05 |
差 |
| 1 |
1.0500000000 |
1.0512710964 |
0.0012710964 |
| 10 |
1.0511401320 |
1.0512710964 |
0.0001309643 |
| 100 |
1.0512579599 |
1.0512710964 |
0.0000131364 |
| 10000 |
1.0512709650 |
1.0512710964 |
0.0000001314 |
| 1000000 |
1.0512710950 |
1.0512710964 |
0.0000000014 |
n を大きくするほど (1+0.05/n)n は e0.05=1.0512710964 に近づいていきます。
この節のまとめ: 数値計算により (1+1/n)n の e への収束と、差がおよそ e/(2n) で縮むことを確認しました。
7. 次回へ ― 近似の正体
今回、数列 (1+1/n)n の極限として e を定義し、(1+x/n)n→ex という拡張を証明し、ex が「微分しても自分自身」という性質を持つことを示しました。
次回 M2 では、ex をべき級数で表す方法を扱います。金融数学のほぼすべての近似公式の正体がそこに見えてきます。
この節のまとめ: e の定義と基本性質が整いました。次回は ex の級数表現に進みます。
よくある質問
e は何に使うのですか
連続的に増える量を表すときに自然に現れます。金利、人口、放射性崩壊など、同じ形が至る所に出ます。
1 の無限乗は 1 ではないのですか
底が 1 に近づきながら指数が大きくなる場合は、近づき方の速さの勝負になり、1 とは限りません。
なぜ微分しても変わらないのですか
e はそうなるように選ばれた底だからです。他の底では定数倍がずれます。
参考文献
- 高木貞治、解析概論、改訂第3版、岩波書店、1983年
- 杉浦光夫、解析入門I、東京大学出版会、1980年
数値例は compute.py により計算済み。本文中の小数は10桁以内で丸めている。