金融庁が暗号資産の監視強化へ|オンチェーンの金融手法とは?概算要求403億円の中身

この記事で伝えたいこと


  • 金融庁は令和9年度に総額403億円を要求した(対前年度+134億円)
  • 成長投資48億円の中に「オンチェーンの金融手法の利活用」が明記された
  • 暗号資産取引業者のモニタリングに室長を新設、無登録業者への犯則調査も体制強化
  • ステーブルコインを扱える登録業者は2社しかない(令和8年8月27日現在)
水野 倫太郎

推進と監視が同じ予算に並んだのが今回の特徴です。
「使えるようにする」と「見張る」が同時に進みます。

水野 倫太郎
(株)ICHIZEN HOLDINGS

代表取締役

この記事の執筆者/監修者

慶應義塾大学経済学部卒。2017年米国留学時にブロックチェーンと出会い、Web3の業界に足を踏み入れる。2018年、仮想通貨メディアCoinOtakuに入社。2019年には同社のCMOに就任し、2020年に東証二部上場企業とM&Aを行い、様々なクリプト事業を展開。2022年に現在代表取締役社長を務めるICHIZEN HOLDINGSを立ち上げ様々なWeb3事業を手がける。複数のWeb3系事業に出資を行いながら有識者として活動。

監修 水野 倫太郎
株式会社ICHIZEN HOLDINGS 代表取締役

慶應義塾大学経済学部。2017年米国留学時にブロックチェーンと出会い、Web3の業界に足を踏み入れる。2018年には、日本有数の仮想通貨メディアCoinOtakuに入社。2019年には同社のCMOに就任し、2020年に東証二部上場企業とM&Aを行い、様々なクリプト事業を展開する。2022年に現在代表取締役社長を務めるICHIZEN HOLDINGSを立ち上げ様々なWeb3事業を手がける。複数のWeb3系事業に出資を行いながら有識者として活動。

目次

金融庁が令和9年度に403億円を要求|過去最大の規模

金融庁が公表した「令和9年度 予算、機構・定員要求について」によると、要求総額は403億円で、対前年度予算から134億円の増額となりました(※1)。内訳は人件費200億円、物件費155億円、デジタル庁一括計上48億円です。伸び率にすると約1.5倍で、金融庁の予算要求としては過去最大の規模になります。

資料の冒頭には「『資産運用立国』の取組を更に発展させ、金融行政を的確に実施するために必要な予算を計上」と書かれています。つまり今回の増額は、既存業務の維持ではなく、政策を前に進めるための予算という位置づけです。

金融庁 令和9年度予算要求 総額403億円 対前年度134億円増
出典:金融庁「令和9年度 予算、機構・定員要求について」

政策的経費は3つの柱に分かれています。金額の大きさで見ると、利用者保護に最も厚く配分されていることが分かります。

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主な政策的経費金額暗号資産に関わる項目
金融システムの信頼確保と利用者保護64億円AI活用による監視・モニタリング基盤の整備
「強い経済」を実現する成長投資の促進48億円オンチェーンの金融手法の利活用
地域金融力の強化28億円該当なし
金融庁「令和9年度 予算、機構・定員要求について」より作成

「オンチェーンの金融手法の利活用」はどこに書かれたのか

暗号資産に関わる記述で最も注目すべきなのが、成長投資48億円の中にある一文です。「デジタル技術を用いた金融サービスの変革」という項目の説明として、「オンチェーンの金融手法の利活用、デジタル決済と連携した決済システムの構築促進」と書かれています(※1)。

金融庁 令和9年度予算要求 成長投資の促進48億円 オンチェーンの金融手法の利活用の記載
出典:金融庁「令和9年度 予算、機構・定員要求について」。成長投資48億円の2項目めに記載

ここで重要なのは、この一文が規制の章ではなく「成長投資の促進」の章に置かれているという点です。同じ48億円の枠には資産運用業の改革促進、PEファンドへの投資環境整備、金融経済教育の充実といった、いずれも「日本の金融市場を厚くする」ための施策が並んでいます。オンチェーンの技術は、そこに並ぶ手段の1つとして扱われています。

暗号資産という言葉を使わずに「オンチェーンの金融手法」と書いている点にも意味があります。値上がりを狙う投資対象としての暗号資産ではなく、取引や決済の仕組みとしてのブロックチェーンを指しているためです。

オンチェーンの金融手法とは何か|証券と決済の2つの流れ

オンチェーンの金融手法とは、株式・債券・ファンド持分・現金といった金融資産の記録と移転を、証券会社や銀行の内部台帳ではなくブロックチェーン上で行う方式のことです。日本の制度に当てはめると、大きく証券の側と決済の側の2つに分かれます。

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区分制度上の呼び方中身
証券の側電子記録移転有価証券表示権利等(セキュリティトークン)不動産・社債などをトークンにして発行・移転する
決済の側電子決済手段(ステーブルコイン)法定通貨に価値を連動させ、支払いや受け渡しに使う
資金決済法・金融商品取引法上の分類をもとに作成

この2つが揃うと、証券の受け渡しと代金の支払いを同じチェーン上で同時に完結させられます。従来は約定から決済まで数営業日かかっていた処理を短縮できる点が、金融庁が「金融サービスの変革」と呼ぶ部分にあたります。仕組みそのものの詳しい解説は、RWA(リアルワールドアセット)とは?で扱っています。

すでに動いているオンチェーン金融の実例

予算に書かれた話は将来の構想に見えますが、実際には日本国内でも海外でも、オンチェーンの金融商品はすでに稼働しています。ここでは制度の登録状況とブロックチェーン上の実測値の両方から、現在地を確認します。

日本のステーブルコイン|扱える業者はまだ2社

ステーブルコインは資金決済法上「電子決済手段」と呼ばれ、売買や仲介を行うには電子決済手段等取引業者の登録が必要です。金融庁の登録一覧を確認したところ、登録業者は2社しかありません(※2)。しかも2社目のコインチェックが登録されたのは令和8年8月27日で、予算要求が公表される直前でした。

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登録番号業者名登録年月日取り扱う電子決済手段
関東財務局長 第00001号SBI VCトレード令和7年3月4日USDC、RLUSD、JPYSC
関東財務局長 第00002号コインチェック令和8年8月27日USDC
金融庁「電子決済手段等取引業者登録一覧」(令和8年8月27日現在)より作成

同じ日付基準で暗号資産交換業者は27社登録されています(※3)。取引所は27社あるのにステーブルコインを扱えるのは2社という差が、決済側の整備がこれからであることを示しています。予算の「デジタル決済と連携した決済システムの構築促進」は、この空白を埋めるための費目と読めます。

円建てステーブルコインの実際の使われ方については、JPYCの活用事例まとめで個別に整理しています。

海外のトークン化ファンド|運用会社が本体で発行している

海外では、大手運用会社が短期米国債などで運用するファンドの持分をそのままブロックチェーン上で発行しています。発行数量はブロックチェーンを直接読めば誰でも確認できるため、編集部でイーサリアム上の発行数量を実測しました。

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銘柄発行体・中身イーサリアム上の発行数量測定日
BUIDLブラックロック。短期国債等で運用するファンド持分211,809,308.382026/08/31
USDYOndo。米国債等を裏付けにした利回り付きトークン1,004,402,163.272026/08/31
OUSGOndo。短期米国債ファンドの持分1,324,125.392026/08/31
単位はトークン数。BUIDLは1トークン1米ドルで設計されたファンド持分、OUSGは1トークンあたりの基準価額が1ドルより大きく、トークン数と金額は一致しません。いずれも複数のブロックチェーンで発行されているため、上表は全体ではなくイーサリアム上の数量です
本記事の検証方法

発行数量は2026年8月31日に、イーサリアムの公開ノードへ各トークンのコントラクトのtotalSupplyとdecimalsを直接照会して取得しました。取引所やデータサイトの集計値ではなく、チェーン上の値をそのまま記載しています。登録業者数は金融庁の登録一覧PDFの「全業者数」欄をそのまま用いました。

金額の水準として見ると、BUIDLだけでイーサリアム上に2億ドル規模の資金が乗っています。日本の制度がこれから整えようとしている領域で、海外はすでに実際の資金を動かしている段階にあるということです。

暗号資産の監視体制も同時に強化される

今回の要求は推進側だけではありません。機構・定員要求を見ると、合計32人の増員要求から定員合理化の18人を差し引き、差引14人の純増を求めています。このうち13人が「新たな金融サービスに対応するための体制強化」に充てられ、その筆頭に暗号資産が置かれました(※1)。

金融庁 令和9年度機構・定員要求 暗号資産取引業者に対するモニタリング体制の強化
出典:金融庁「令和9年度 予算、機構・定員要求について」

具体的には「暗号資産取引業者に対するモニタリング体制の強化(室長の設置等)」と書かれています。企画官ではなく室長の設置を求めているため、担当者を増やすのではなく組織単位を作る要求だと読めます。あわせて「電子決済手段等取引業者の監督体制の強化」も並んでおり、ステーブルコインの監督も対象です。

もう1つ、19人枠のほうに置かれた項目も見逃せません。「大量保有報告書に係る開示検査や無登録業者に対する犯則調査の実施体制強化(統括調査官、統括特別調査官の設置等)」という記述があります。無登録業者への犯則調査は、日本で登録を受けずに勧誘を行う海外事業者が対象になり得る部分です。

水野 倫太郎

推進と監視の両方に予算が付いた形です。
使える範囲は広がる一方で、登録のない事業者は見られる側に回ります。

ICHIZEN Capitalの視点|数字の非対称に注目したい

今回の資料で最も情報量があるのは、金額よりも登録業者数の非対称だと考えています。暗号資産交換業者は27社ある一方、ステーブルコインを扱える電子決済手段等取引業者は2社です。決済側が13分の1以下しかない状態で「デジタル決済と連携した決済システムの構築促進」が予算化されたことになります。

この差は、利用者にとっては当面の不便として現れます。海外ではBUIDLのようなトークン化ファンドがイーサリアム上で2億ドル規模まで積み上がっている一方、日本の登録業者経由で扱える電子決済手段はUSDC、RLUSD、JPYSCの3種類にとどまります。制度の外にある商品へ手を伸ばすと、そこは金融庁の登録一覧に載っていない領域になります。

今回の予算要求から読み取れること
  • オンチェーンは規制対象ではなく成長投資の手段として扱われた
  • 推進(48億円)と監視(64億円)が同じ資料に並んだ
  • 暗号資産の監督は担当者増ではなく室の新設を要求している
  • 無登録業者への犯則調査にも体制強化が入った

なお概算要求は各省庁が財務省へ出す要求段階の数字であり、最終的な予算額は年末の政府案と国会審議を経て決まります。403億円がそのまま確定するわけではない点は押さえておく必要があります。

よくある質問

金融庁の令和9年度の予算要求はいくらですか?

総額403億円です。対前年度予算から134億円の増額で、内訳は人件費200億円、物件費155億円、デジタル庁一括計上48億円となっています。金融庁が公表した「令和9年度 予算、機構・定員要求について」に記載があります。

「オンチェーンの金融手法の利活用」とはどういう意味ですか?

株式や債券、現金といった金融資産の記録と移転を、金融機関の内部台帳ではなくブロックチェーン上で行う方式のことです。予算資料では「デジタル技術を用いた金融サービスの変革」の説明として書かれており、暗号資産への投資ではなく取引や決済の仕組みを指しています。

予算が増えると暗号資産の規制は厳しくなりますか?

監督体制は強化されます。機構・定員要求に「暗号資産取引業者に対するモニタリング体制の強化(室長の設置等)」が入っているためです。ただし同じ資料の成長投資の枠にはオンチェーン技術の利活用も含まれており、規制強化だけの内容ではありません。

電子決済手段等取引業者とは何ですか?

ステーブルコイン(資金決済法上の電子決済手段)の売買や仲介を行うために必要な登録区分です。暗号資産交換業とは別の登録で、金融庁・財務局への登録が求められます。登録業者は金融庁のホームページで確認できます。

日本でステーブルコインを扱っている業者はどこですか?

令和8年8月27日現在で2社です。SBI VCトレード(USDC、RLUSD、JPYSC)とコインチェック(USDC)が電子決済手段等取引業者として登録されています。コインチェックの登録日は令和8年8月27日で、登録されたばかりです。

日本に暗号資産交換業者は何社ありますか?

27社です(令和8年8月21日現在)。金融庁の「暗号資産交換業者登録一覧」に記載された全業者数で、この一覧に載っていない事業者は国内で登録を受けていないことになります。

無登録の海外取引所を使うと利用者が罰せられますか?

今回の資料で体制強化の対象とされているのは、無登録で業を行う事業者側への犯則調査です。利用者個人への罰則を定めた内容ではありません。ただし無登録業者は日本の登録一覧に載らず、トラブル時に国内の枠組みでの救済を受けにくい点には注意が必要です。

概算要求はそのまま予算になりますか?

なりません。概算要求は各省庁が財務省に出す要求段階の数字で、最終的な金額は年末の政府予算案と翌年の国会審議を経て決まります。403億円は要求額であり、確定額ではありません。

まとめ|推進と監視が同じ予算に並んだ

この記事のまとめ
  • 要求総額403億円、対前年度+134億円
  • 成長投資48億円にオンチェーンの金融手法が明記
  • 暗号資産のモニタリングに室長を新設要求
  • ステーブルコインを扱える登録業者は2社のみ
  • 概算要求であり確定額ではない

金融庁の令和9年度の要求は、暗号資産まわりを「伸ばす対象」と「見る対象」の両方として扱っています。成長投資48億円にオンチェーンの金融手法が入り、同じ資料の機構・定員要求では暗号資産取引業者のモニタリングに室長の設置が求められました。どちらか一方の話ではありません。

利用者の立場で当面効いてくるのは、決済側の登録業者がまだ2社しかないという現実のほうです。制度が追いつくまでの間、扱える商品は限られます。今後この2社の数がどう増えていくかが、日本でオンチェーン金融が実際に使えるようになるかどうかの目安になります。

※1 金融庁「令和9年度 予算、機構・定員要求について」https://www.fsa.go.jp/common/budget/yosan/9youkyuu.html
※2 金融庁「電子決済手段等取引業者登録一覧」(令和8年8月27日現在)https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/denshikessaisyudan.pdf
※3 金融庁「暗号資産交換業者登録一覧」(令和8年8月21日現在)https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kasoutuka.pdf

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