オフチェーンとは?その意味や、実装方法、実例や将来性を初心者向けに解説!

オフチェーンとは、ブロックチェーンの外部でトランザクション(取引)処理を行い、最終的な結果のみをブロックチェーンに記録する技術です。
この仕組みにより、処理速度の向上と手数料(ガス代)の大幅な削減を実現します。

ブロックチェーンは「ガス代が高い」「処理が遅い」というスケーラビリティ問題を抱えており、これがWeb3の大衆化を妨げる大きな障壁となっています。オフチェーン技術は、ブロックチェーンのセキュリティを維持しながら、これらの課題を解決する鍵として注目されています。

この記事では、オフチェーンの基本的な仕組みから、主要技術(ペイメントチャネル、Rollup等)、最新事例、今後の展望までを、WEB3/ブロックチェーンのプロフェッショナルの視点で徹底解説します。

目次

ブロックチェーンのオフチェーンとは

​オフチェーンとオンチェーンの違い

ブロックチェーン上の取引は、すべて「オンチェーン」で処理されます。
これは、すべての取引データがブロックチェーンに直接記録され、ネットワーク参加者全員によって検証されることを意味します。この仕組みにより、高いセキュリティ、透明性、不変性が保証されます。

しかし、その反面、取引の承認に時間がかかり(処理速度の遅さ)、ネットワークが混雑すると手数料(ガス代)が高騰するというスケーラビリティの限界も抱えています。

一方、オフチェーン処理は、これらの課題を解決するために考案されました。
ブロックチェーン外で取引を迅速に処理し、その結果と必要な証明データをブロックチェーンに記録します。この方法は、非中央集権的で透明性のある証拠を保持し、中央集権的なサーバーに依存することなく取引を処理する特性を持ちます。これにより、各技術のセキュリティモデルに基づいて、高速かつ低コストな取引が可能になります。

ブロックチェーンのトリレンマとオフチェーンの役割

京都大学

ブロックチェーン技術には、「分散性」「セキュリティ」「スケーラビリティ」の3つの要素を同時に最高レベルで満たすことは難しいとされる「トリレンマ」が存在します。

例えば、分散性とセキュリティを重視するビットコインやイーサリアムは、スケーラビリティを犠牲にしています。オフチェーン技術、特にLayer2技術やその他の新しいアプローチによって、スケーラビリティの向上が進められており、これによりブロックチェーンのトリレンマの一部を改善するための有力な手段となっています。ただし、分散性やセキュリティの完全なバランスを取るためには、技術ごとのアプローチと解決策が異なります。

オフチェーン技術の実装方法:Layer2とサイドチェーン

オフチェーン技術を実現する方法として、主に「Layer2ソリューション」と「サイドチェーン」の2つのアプローチがあります。

Layer2ソリューションは、メインブロックチェーン(Layer1)の上に構築され、そのセキュリティを継承しながら処理を高速化する技術です。
取引データや証明をLayer1に記録することで、Layer1と同等のセキュリティを維持します。代表例として、State Channels(Lightning Network)やRollups(Optimistic Rollup、ZK Rollup)があります。

サイドチェーンは、インブロックチェーンと並行して動作する独立したブロックチェーンです。独自のコンセンサスメカニズムとセキュリティモデルを持つことが多いですが、必ずしもLayer1と完全に切り離されているわけではなく、連携によってセキュリティが保たれるケースもあります。Two-way peg(双方向ペグ)という仕組みでメインチェーンと資産を移動します。代表例として、Polygon PoSやRoninがあります。

【​サイドチェーン】

サイドチェーンとオフチェーンはよく並べて語られることが多いのですが、全くの別ものです

オフチェーンが「オンチェーンと対をなし、メインチェーンに記載されない取引」という概念的なものです。それに対して、サイドチェーンは「メインチェーンから分岐して、メインチェーンの働きを助けたり、独自のシステムを導入したりするためのブロックチェーン」というチェーンそのものを指します。

​オフチェーン技術のメリット

スケーラビリティの劇的な向上

オフチェーン技術は、ブロックチェーンのスケーラビリティを大幅に向上させます。例えば、ビットコインのLightning Networkは理論的に数百万TPSを処理可能ですが、現実的には現在のネットワーク規模やノード数においては、まだ実用的な範囲での取引量で稼働しています。イーサリアムのRollup技術も数千から数万TPSを実現します。これは、Layer1の数十TPSと比較して大幅な性能向上です。

この性能向上は、単に「速くなる」以上の意味を持ちます。これまでブロックチェーンでは非現実的だったマイクロペイメント(数円単位の決済)や、オンラインゲーム内でのリアルタイムなアイテム売買、IoTデバイス間のデータ交換など、新たなユースケースを創出する基盤となります。

取引コスト(ガス代)の抜本的な削減

オフチェーン技術は、取引コストを抜本的に削減します。
特にRollupは、数百から数千の取引を1つにまとめることで、ユーザー1人あたりの負担をLayer1の1/10から1/100以下に抑えることが可能です。Steak ‘n Shakeの事例では、Lightning Network導入により決済手数料が50%削減されたと報告されています。

このコスト削減により、これまでガス代の高さから敬遠されていた少額のDeFi取引や、頻繁なNFTのミント(発行)などが経済的に合理性を持ち、Web3サービスがより多くのユーザーにとって利用しやすくなります。

Web2に匹敵するユーザーエクスペリエンス(UX)の実現

オフチェーン技術、特にZK Rollupは、取引の即時ファイナリティ(取引の最終確定)を実現します。

これにより、ユーザーはWeb2サービスのようなストレスのない、高速なアプリケーション体験を享受できます。
取引のたびに数分待たされたり、複雑な操作を要求されたりすることがなくなり、Web3サービスが一般ユーザーに普及する(マスアダプション)ための大きな障壁が取り除かれます。

とはいえ、現状は「ネットワークが混んでいます」というブロックチェーンならではの表示による利用制限が出るサービスが多いです。

プライバシーの強化(特にZK Rollup)

ZK Rollupは、ゼロ知識証明を用いることで、取引の詳細を秘匿したまま、その取引が正当であることだけを証明できます。

これは、企業のサプライチェーン管理や金融機関同士の決済など、取引の機密性が求められるユースケースにおいて極めて重要です。
オンチェーンの透明性を保ちつつ、オフチェーンでプライバシーを確保できる点は、エンタープライズ領域でのブロックチェーン活用を加速させる大きなメリットです。

オフチェーン技術のデメリット​とリスク

​セキュリティと信頼性のトレードオフ

「オフチェーンはセキュリティが脆弱」と一括りにするのは正確ではありません。
正しくは、技術ごとに異なる「トレードオフ」が存在します。

Layer2は、Layer1のセキュリティを継承しますが、完全に信頼が不要(トラストレス)なわけではありません。Optimistic Rollupでは、不正を監視する検証者が機能しない場合、不正な取引が見逃されるリスクがあります。また、多くのRollupでは、取引を順序付ける「シーケンサー」が中央集権的に運営されており、シーケンサーが悪意を持ったり、障害を起こしたりするリスクが存在します。

サイドチェーンは、独自のコンセンサス・メカニズムにセキュリティを依存するため、Layer1と同等のセキュリティは保証されません。例えば、サイドチェーンのバリデーターが結托すれば、51%攻撃によって不正な取引が承認されるリスクがLayer1よりも高くなります。

中央集権化のリスクと単一障害点

特にOptimistic Rollupなどの一部の技術では、取引の順序付けを中央集権的に行うシーケンサーに依存しているため、スケーラビリティを実現しながらも一部集権的なリスクが生じる場合があります。

シーケンサーが中央集権的に運営されることが多いため、シーケンサーが悪意を持ったり、障害が発生した場合、取引が検閲されるリスクが高まります。
また、攻撃者によって取引の順序付けが操作される可能性や、単一障害点(SPOF)となるリスクも存在します。このため、分散型シーケンサーの導入が解決策として期待されています。

Layer2技術①:ペイメントチャネルとLightning Network

ペイメントチャネルの仕組みとLightning Network

ペイメントチャネルは、二者間で取引チャネルを開設し、その中で無数の高速・低コストな取引を行う技術です。チャネルを閉じる際に、最終的な残高のみをオンチェーンに記録します。この技術をネットワーク状に発展させたものが、ビットコインの決済インフラとして注目される「Lightning Network」です。

Lightning Networkは、2025年6月時点で公開ノード数が約11,411、総容量が約4,112 BTCに達するなど、着実な成長を続けています。特にマイクロペイメント(少額決済)の送金額は、2022年から2024年にかけて2,424%という驚異的な増加を記録しました。

Lightning Networkの主要な企業導入事例

Lightning Networkは、単なる理論上の技術ではなく、既に多くの企業で実用化が進んでいます。ここでは、主要な3つの事例を紹介します。

  • Steak ‘n Shake:全米での実店舗決済 米国の人気ハンバーガーチェーンSteak ‘n Shakeは、2025年5月に全米でLightning Network決済を導入しました。この導入により、Q3(7-9月期)には同店売上が15%増加し、決済手数料を50%削減するという顕著な成果を上げています。
  • Coinbase:大手取引所での活用 世界最大級の暗号資産取引所であるCoinbaseは、2024年4月にLightspark社と提携し、Lightning Networkを導入しました。2025年4月時点で、Coinbase上のビットコイン取引量の約15%がLightning Network経由で行われており、大規模なプラットフォームでの実用性を証明しています。
  • Lightspark:クロスボーダー送金の革新 PayPalの元社長が率いるLightsparkは、2024年12月20日にUMA(Universal Money Address)技術を用いた米国-メキシコ間のクロスボーダー送金サービスを開始しました。2024年の米墨間送金市場は個人だけで650億ドルに達しており、この分野でのオフチェーン技術の活用が期待されています。

Layer2技術②:Rollup(ロールアップ)

Rollupの仕組みと2つの主要タイプ

Rollupは、数百から数千のトランザクションをオフチェーンでまとめて処理し、その圧縮されたデータと「正しさの証明」をメインチェーンに記録する技術です。現在、Layer2の主流技術として位置づけられており、「Optimistic Rollup」と「ZK Rollup」の2種類が存在します。

Optimistic Rollupは、「性善説」に基づき、オフチェーンでの取引は基本的に正しいと仮定します。不正が疑われる場合にのみ、「不正の証明(Fraud Proof)」を提出して異議を申し立てる仕組みです。このため、出金時に7日間程度の待機期間が必要となります。代表例はOptimism、Arbitrum、Baseです。

ZK Rollupは、「数学的証明」に基づき、ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof)を用いて取引の正しさを数学的に証明します。これにより、待機期間なしで即座に取引が確定します。代表例はzkSync、Starknet、Polygon zkEVMです。

特徴Optimistic RollupZK Rollup
アプローチ性善説(不正の証明)数学的証明(ゼロ知識証明)
出金時間約7日間即時
技術的複雑さ比較的低い高い
代表例Optimism, Arbitrum, BasezkSync, Starknet, Polygon zkEVM

RollupとPolygon PoSの最新活用事例

Rollup技術と、サイドチェーンとして独自の地位を築くPolygon PoSは、DeFi(分散型金融)からゲーム、RWA(現実世界資産のトークン化)まで、幅広い分野で活用されています。

ここでは、特に注目すべき3つの事例を紹介します。

  • Polymarket(予測市場):Polygon PoS上で稼働する予測市場Polymarketは、2024年に累計取引量90億ドル超を記録しました。特に11月の月間取引量は26.3億ドルに達し、Web3のユーザー体験を世界最高レベルに引き上げた成功事例として知られています。
  • MATR1X FIRE(ゲーム):Polygon PoS上のシューティングゲームMATR1X FIREは、470万回以上のダウンロードと1億3,800万件の取引を記録し、Web3ゲームの大規模採用を実証しました。
  • Spiko(RWA):国債をトークン化するSpikoは、2024年4月のローンチから1年足らずで、ユーロ圏国債で2億4,400万ユーロ、米国国債で4,700万ドル以上の純流入を記録しました。RWA分野におけるオフチェーン技術の可能性を示す代表的な事例です。

オフチェーン技術の今後の展望

オフチェーン技術は、今後もWeb3の発展を牽引する重要な役割を担います。
ここでは、確度が高いと見られる3つのトレンドを深掘りします。

ZK Rollupの成熟と普及

現在のLayer2エコシステムでは、Optimistic Rollupが主流を占めており、2025年初頭時点でLayer2 TVL(Total Value Locked)の60%以上のシェアを持っています

しかし、約7日間の出金待機期間が大きな課題となっています。この待機期間は、DeFiプロトコルでの資金効率を低下させ、特に金融アプリケーションにおいて致命的な制約となります。一方、ZK Rollupはゼロ知識証明によって取引の正しさを数学的に証明するため、待機期間なしで即座に取引が確定します。

2024年から2025年にかけて、ZK Rollup技術は大きく進化しました。zkEVM(EVM互換のZK Rollup)の実装が進み、zkSync Era、Starknet、Polygon zkEVMなどの主要プロジェクトが本格稼働を開始しています。zkSyncは取引手数料$0.01以下で2,000 TPS以上を実現し、Polygon zkEVMはLayer1コストを90%削減しました。

証明生成コストも大幅に削減されており、業界予測によると、2025年末までにZK RollupがEthereumのLayer2トランザクションの60%以上を処理する可能性があり、技術的な成熟が加速しています。

2026年以降、ZK Rollupは金融やエンタープライズ領域での採用がさらに加速すると予想されます。即座に取引が確定する特性は、DeFiプロトコルの資金効率を大幅に向上させ、RWA(現実世界資産のトークン化)分野でも重要な役割を果たすでしょう。さらに、ZK-SNARKsやZK-STARKsによるプライバシー保護機能が進化することで、規制対応が求められる金融機関の採用も進むと考えられます。長期的には、ZK RollupがLayer2の主流技術になる可能性が高いと見られています。

AggLayerによるクロスチェーン統合

現在、Layer2エコシステムはチェーンごとに分断されており、ユーザーは資産を移動させる際にブリッジを使う手間とコストが発生しています。この「断片化」問題により、流動性とユーザーベースが各チェーンに分散し、Web3の利便性が大きく損なわれています。この課題を解決するのが、Polygonが推進する「AggLayer」です。AggLayerは、複数のRollupを統合し、異なるチェーン間での流動性とユーザーベースの共有を可能にするクロスチェーン決済レイヤーです。

2025年2月3日、AggLayer v0.2がメインネット稼働を開始しました。
このバージョンでは、安全なクロスチェーン接続を実現する「Pessimistic Proofs」という画期的なセキュリティメカニズムが導入されています。2025年5月時点で既に8つのチェーンがAggLayerメインネットに接続しており、エコシステムは急速に拡大しています。さらに、Polygon PoSネットワークをAggLayerに接続する提案が進行中で、Succinct LabsのSP1技術を使用してzkEVM validiumへ移行する計画が進められています。

Polygon Labsは2025年を「AggLayerの年」と位置づけており、今後さらに多くのチェーンが接続される見込みです。2025年10月のRioアップグレードにより、Polygon PoSは約5,000 TPSを実現し、AggLayer統合の準備が整いました。2026年以降は、Polygon PoSを100,000 TPSにスケールアップし、ブロックごとのファイナリティとAggLayer統合による流動性最適化が計画されています。ユーザーは複数のRollupをシームレスに利用できるようになり、Web3の利便性が飛躍的に向上すると期待されています。

ステーブルコインとオフチェーン技術の統合

価格変動の大きい暗号資産は決済手段として課題を抱えていますが、法定通貨に価値が連動するステーブルコインは、Web3の実用化における最も重要な要素の一つです。
ステーブルコイン市場は急速に成長しており、2023年中頃の約120億ドルから2025年初頭には230億ドル超へと約2倍に拡大しました。この成長は、クロスボーダー送金や実店舗決済での需要が高まっていることを示しています。

2025年、ステーブルコインとオフチェーン技術の統合が本格化しています。Lightning Network上では、2025年1月にTether on Lightningが発表され、Lightning Networkウォレットでのステーブルコイン送金機能が実装されました。
ただし、現在の段階では利用可能なウォレットや取引所が限定されており、普及には時間がかかると予想されています。また、Rollup上でもステーブルコイン決済が拡大しており、Polygon PoS上のステーブルコイン取引量はEthereum、Arbitrum、Baseを上回る規模に達しています。これらの進展により、送金コストが劇的に削減され、クロスボーダー送金や実店舗決済での活用が現実のものとなっています。

ステーブルコイン市場は今後も成長を続け、2030年までにベースケースで1,900億ドルに達すると予測されています。Lightning Network上でのステーブルコイン送金は、従来の国際送金と比較して手数料を大幅に削減し、数秒で送金が完了するため、クロスボーダー送金の主流となる可能性があります。

また、Rollup上でのステーブルコイン決済も一般化し、実店舗やオンラインショッピングでの利用が拡大するでしょう。価格安定性と低コストを両立したステーブルコイン決済が、Web3の主流となる日も遠くありません。

​オフチェーン まとめ

オフチェーン技術は、ブロックチェーンのスケーラビリティ問題を解決し、Web3のマスアダプション(大衆化)を実現するための鍵です。
この記事で解説したように、Lightning NetworkやRollupといった技術は急速に進化し、決済、DeFi、ゲーム、RWAなど、様々な分野で具体的な成果を生み出し始めています。

今後のトレンドとして、ZK Rollupの普及、AggLayerによるクロスチェーン統合、そしてステーブルコインとの連携が、Web3の未来を形作っていくことは間違いありません。
実際にLayer2やLightning Network対応のウォレットを使ってみることで、その可能性を肌で感じることができるでしょう。オフチェーン技術の進化から、今後も目が離せません。

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