レイヤー2(L2/セカンドレイヤー)とは?その仕組み・主要プロジェクト5つを徹底解説

ブロックチェーンのスケーラビリティ問題を解決する技術として注目される「レイヤー2(L2/セカンドレイヤー)」。
この記事では、2025年最新の動向を踏まえ、レイヤー2の基本的な仕組みから、Optimistic RollupやZK Rollupといった主要技術、ArbitrumやBaseなどの代表的なプロジェクトまで、専門家視点で網羅的に解説します。
誰もがレイヤー2の「今」を理解できる内容になっています。
レイヤー2(L2/セカンドレイヤー)とは?
セカンドレイヤー(レイヤー2)は、一言でいうと「ブロックチェーンの高速道路」のようなものです。
ビットコインやイーサリアムといったメインのブロックチェーン(レイヤー1)が一般道だとすれば、レイヤー2はその上にもう一つ層(レイヤー)を作り、取引(トランザクション)を渋滞なく、高速かつ低コストで処理するための専用レーンと言えます。
なぜレイヤー2が必要なのでしょうか?
それは、レイヤー1が抱える「スケーラビリティ問題」を解決するためです。
ブロックチェーンは、その仕組み上、一度に処理できる取引の数に限りがあります。
そのため、利用者が増えると「取引の処理が遅くなる」「手数料(ガス代)が高騰する」といった問題が発生します。これがスケーラビリティ問題です。
レイヤー2は、取引の大部分をレイヤー1の外(オフチェーン)で実行し、最終的な結果だけをレイヤー1に書き込むことで、この問題を解決します。
この技術の登場により、レイヤー2エコシステムは急速に成長しました。
2025年11月時点で、主要なレイヤー2プロジェクトに預けられている資産の総額(TVS: Total Value Secured)は、約403億ドル(約6兆円)に達しており、ブロックチェーンインフラの根幹をなす巨大市場となっています。
レイヤー2(L2/セカンドレイヤー)のメリット・デメリット
セカンドレイヤーは多くの利点をもたらしますが、一方で新たな課題も存在します。
ここでは、その両側面メリットとデメリットを解説します。
- メリット①:圧倒的な手数料(ガス代)削減
- メリット②:トランザクションの高速化
- メリット③:ユーザー体験(UX)の向上
- デメリット①:セキュリティと分散性のトレードオフ
- デメリット②:異なるL2間の分断(フラグメンテーション)
- デメリット③:ユーザーにとっての複雑性
メリット①:圧倒的な手数料(ガス代)削減
レイヤー2の最大のメリットは、手数料の大幅な削減です。
取引の大部分をオフチェーンで処理するため、レイヤー1に支払う手数料を劇的に抑えることができます。
例えば、イーサリアムのレイヤー2であるArbitrumやBaseでは、レイヤー1に比べて手数料を90%以上削減できるケースも珍しくありません。
メリット②:トランザクションの高速化
レイヤー1では数分かかっていた取引の確定(ファイナリティ)が、レイヤー2では数秒で完了します。
これにより、決済やゲームなど、即時性が求められるアプリケーションでの実用性が飛躍的に向上しました。
例えば、ビットコインのレイヤー2であるLightning Networkは、理論上1秒間に100万件ものトランザクションを処理できるとされています2。
メリット③:ユーザー体験(UX)の向上
手数料が安く、処理が速いことは、そのままユーザー体験の向上に直結します。
これまでガス代を気にしてためらっていた少額の取引や、DeFi(分散型金融)での頻繁な取引も、レイヤー2上では気軽に行えるようになります。
これにより、ブロックチェーンアプリケーションがより多くの人にとって使いやすいものになります。
デメリット①:セキュリティと分散性のトレードオフ
レイヤー2は、レイヤー1のセキュリティを活用しつつも、一部の処理をオフチェーンで行うため、理論的にはレイヤー1単体よりも攻撃対象領域が広がる可能性があります。
特に、取引を検証しブロックを生成する「シーケンサー」が中央集権的に運用されている場合、その単一障害点がリスクとなり得ます。
デメリット②:異なるL2間の分断(フラグメンテーション)
現在、数多くのレイヤー2ネットワークが存在しますが、それぞれが独立したエコシステムを形成しています。
そのため、あるレイヤー2から別のレイヤー2へ資産を移動させるには、「ブリッジ」と呼ばれる専用の仕組みを使う必要があり、手間とコスト、そしてセキュリティリスクが伴います。
この資産や流動性の分断は、エコシステム全体の課題とされています。
デメリット③:ユーザーにとっての複雑性
レイヤー1に加えてレイヤー2という新しい概念が登場したことで、ユーザーが理解すべきことが増えました。
どのレイヤー2ネットワークを選ぶべきか、どのように資産を移動させるかなど、初心者にとってはハードルが高く感じられることがあります。
この複雑性が、マスアダプション(大衆への普及)に向けた課題の一つです。
【技術解説】レイヤー2(L2/セカンドレイヤー)の主要な仕組み
セカンドレイヤーを実現する技術はいくつかありますが、現在、特にイーサリアムエコシステムで主流となっているのが「ロールアップ(Rollup)」です。
ロールアップは、数百から数千のトランザクションをオフチェーンでまとめて(Roll up)、その圧縮されたデータと最終的な結果だけをレイヤー1に記録する技術です。
これにより、レイヤー1の負担を大幅に軽減します。ロールアップには、主に2つの種類が存在します。
- Optimistic Rollup(オプティミスティック・ロールアップ)
- ZK Rollup(ジーケー・ロールアップ)
Optimistic Rollup(オプティミスティック・ロールアップ)の仕組みと特徴
Optimistic Rollupは、「性善説」に基づいた仕組みです。
オフチェーンで処理された取引は「すべて正しい(Optimistic)」と楽観的に仮定し、その結果をレイ ヤー1に記録します。ただし、その記録には「チャレンジ期間」と呼ばれる約7日間*の猶予期間が設けられます。
もし、その期間中に誰かが「その取引は不正だ」と証明(Fraud Proof:不正証明)した場合、その取引は取り消され、不正を働いたオペレーターにはペナルティが課せられます。
この仕組みにより、レイヤー1のセキュリティを担保しつつ、高速な処理を実現しています。

Optimistic Rollupのアーキテクチャ – Sequencer(シーケンサー)がトランザクションを処理し、Aggregator(アグリゲーター)がバッチ化、不正があればFraud Proof(不正証明)で巻き戻される
*7日間チャレンジは一律ではありません。Optimistic系の待機時間は実装で差があります。
- Arbitrum のチャレンジは6日8時間(設計上12日超になるケースも)。
- Base(OP Stack) は「3日12時間でステート確定」のフローもあり、証明の取り扱いにより 7日 が絡む分岐も存在。
ZK Rollup(ジーケー・ロールアップ)の仕組みと特徴
ZK Rollupは、Optimistic Rollupとは対照的に「性悪説」に基づき、高度な暗号技術である「ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof)」を活用します。
これは、取引の詳細な内容を一切明かすことなく、「その取引が正しく実行された」という事実だけを証明できる技術です。
オフチェーンで処理された大量の取引は、このゼロ知識証明によって正当性が数学的に検証され、その証明(Validity Proof:有効性証明)だけがレイヤー1に記録されます。
これにより、チャレンジ期間を待つ必要がなく、取引は即座に確定(ファイナリティ)します。
OptimisticとZKの比較
どちらの技術にも一長一短があり、どちらかの方が良いなどは一概に言えず、現在は用途に応じて使い分けられています。
Optimistic Rollupは、既存のイーサリアムの仕組み(EVM)との互換性が高く、開発者が参入しやすいという利点があります。一方で、出金に約7日間の待機期間が必要というデメリットがあります。
対するZK Rollupは、出金が即時に完了し、セキュリティもより強固ですが、技術的な複雑さから開発の難易度が高いとされてきました。しかし、近年はZK-EVMなどの開発が進み、この差は縮まりつつあります。
| 特徴 | Optimistic Rollup | ZK Rollup |
|---|---|---|
| 基本思想 | 性善説(楽観的) | 性悪説(数学的検証) |
| 検証方法 | 不正証明(Fraud Proof) | 有効性証明(Validity Proof) |
| 出金時間 | 約7日間(チャレンジ期間) | 即時 |
| セキュリティ | 高い(経済的インセンティブ) | より高い(数学的保証) |
| 開発の容易さ | 比較的容易(EVM互換性高い) | 比較的難しい(技術的複雑性) |
| 代表例 | Arbitrum, Base, OP Mainnet | zkSync, Starknet, Polygon zkEVM |
その他のレイヤー2ソリューション
ロールアップ以外にも、サイドチェーンやValidiumといった技術が存在します。
サイドチェーンは、独自のコンセンサスアルゴリズムを持つ独立したブロックチェーンで、メインチェーンと「ブリッジ」で接続されます。
Validiumは、ZK Rollupと似ていますが、取引データをオフチェーンで管理する点で異なり、より高いスケーラビリティを実現します。

主要なレイヤー2(L2/セカンドレイヤー) プロジェクト5選
2025年現在、数多くのレイヤー2プロジェクトがしのぎを削っていますが、ここでは特に注目すべき5つのプロジェクトを厳選して紹介します。
Polygon(ポリゴン):EthereumのL2
Polygonは「L2ソリューションの総合デパート」とも呼ばれ、サイドチェーン、ZK Rollup、Validiumなど、複数のスケーリング技術を包括的に提供するプラットフォームです。
開発者は、自身のアプリケーションのニーズに最適なソリューションを選択できます。
スターバックスやディズニーといった大手企業との提携でも知られ、幅広いユースケースを持つ巨大なエコシステムを形成しています。
Base(ベース):EthereumのL2
Baseは、大手暗号資産取引所CoinbaseがOptimismの技術(OP Stack)を基盤に開発したレイヤー2ネットワークです。
2024年にローンチされると、Coinbaseの1億人を超えるユーザーベースを背景に急成長。
2025年11月にはTVLが147.9億ドルに達し、トランザクション数では全L2の中でトップを記録しています1。
シンプルで開発者に優しい環境を提供し、多くの新しいアプリケーションが生まれています。
Arbitrum(アービトラム):EthereumのL2
Arbitrumは、Optimistic Rollupを採用したレイヤー2の代表格であり、2025年11月時点でTVLが167.3億ドルと、全L2の中で最大の市場シェアを誇ります。
DeFi(分散型金融)領域で特に強く、UniswapやAaveといった主要なDeFiプロトコルがArbitrum上で稼働しており、活発な経済圏を築いています。
Lightning Network(ライトニングネットワーク):BitcoinのL2
Lightning Networkは、ビットコインの少額決済(マイクロペイメント)問題を解決するために設計された、最も歴史のあるレイヤー2です。
ペイメントチャネルという技術を使い、当事者間での取引をオフチェーンで高速かつ極めて低コストで実行します。
日常的な支払いやコンテンツクリエイターへのチップなど、ビットコインを「お金」として使うためのインフラとして期待されています。
Stacks(スタックス):BitcoinのL2
Stacksは、ビットコインにスマートコントラクト機能をもたらす画期的なレイヤー2です。
ビットコインは本来、複雑なアプリケーションを構築するための設計にはなっていませんが、Stacksは「Proof of Transfer(PoX)」という独自のコンセンサスメカニズムにより、ビットコインの強固なセキュリティを活用しつつ、DeFiやNFTといったdApps(分散型アプリケーション)を構築することを可能にします。
2024年の「Nakamoto Upgrade」により、取引速度が大幅に向上しました。
L2の定義はエコシステム間で差異があります。
Ethereumのエコシステム内では、「L1上にデータが公開され、単独でL1へ退出できる」と言う要件が重視されています。
この定義を踏まえると、実はStacksは現状明確なL2ではありません。Stacks自身も厳格にはL2ではないと言うことも認めているようです。
【将来性】レイヤー2(L2/セカンドレイヤー)の今後と未来
セカンドレイヤーは、ブロックチェーン技術の未来を占う上で最も重要な領域の一つです。
今後、どのような進化を遂げていくのでしょうか。
EthereumのロードマップとL2の役割
イーサリアムは、将来的なアップデートで「ダンクシャーディング」と呼ばれる技術を導入し、レイヤー2が利用するデータ容量を大幅に拡大する計画です。
これにより、レイヤー2の取引手数料はさらに10分の1以下になる?とも言われています。
イーサリアム自身がスケーリングを行うのではなく、レイヤー2をエコシステムの中心に据え、共存共栄していく「ロールアップ中心のロードマップ」を明確にしています。
ZK Rollup技術のさらなる進化
現在はOptimistic Rollupが市場シェアで優位に立っていますが、長期的には、数学的な正当性により高いセキュリティと即時ファイナリティを提供するZK Rollupが主流になると多くの専門家は考えています。
ZK-EVMのような開発環境の改善が進むことで、ZK Rollup上でのアプリケーション開発がさらに活発化していくでしょう。
モジュラーブロックチェーンとL2の関係
近年、「モジュラーブロックチェーン」という新しい概念が登場しています。
これは、ブロックチェーンの機能(実行、決済、データ可用性など)を専門のレイヤーに分割し、それぞれを最適化するという考え方です。このアーキテクチャにおいて、レイヤー2は「実行レイヤー」として中心的な役割を担うことになり、その重要性はますます高まっていくと考えられます。
レイヤー2(L2/セカンドレイヤー) まとめ
セカンドレイヤー(レイヤー2)は、単なる一時的な解決策ではなく、ブロックチェーンが社会インフラとして普及するための根幹をなす技術です。
025年現在、TVSは約400億ドルという巨大な市場を形成し、Optimistic RollupとZK Rollupという2つの主流技術を中心に、エコシステムは拡大を続けています。
手数料の削減や処理速度の向上といった直接的なメリットにより、ブロックチェーン技術の実用性を大きく高めています。
今後、技術のさらなる進化とイーサリアムとの連携深化により、レイヤー2は私たちのデジタルライフを支える、より身近で不可欠な存在になっていくことでしょう。
